※下記は自治体通信 Vol.62(2024年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体では、庁内事務の管理システムにオールインワンパッケージを採用している例が多い。そうしたなか、導入時のカスタマイズによって、その後のシステム運用管理が煩雑になり、業務の効率が鈍化することもあるようだ。そうした状況の改善に向け、マルチベンダー化を図ったのが目黒区(東京都)。そこでは、「統合基盤」の導入が大きなポイントだったという。同区情報政策課の伊藤氏に、マルチベンダー化を図った経緯や、「統合基盤」の詳細などを聞いた。
[目黒区] ■人口:28万1,444人(令和6年11月1日現在) ■世帯数:16万1,581世帯(令和6年11月1日現在) ■予算規模:1,882億8,396万8,000円(令和6年度当初)
■面積:14.67km² ■概要:武蔵野台地の東南部に位置し、その大半が台地と谷で形成され、起伏が激しい。昭和7年10月に東京府荏原郡目黒町と碑衾町が合併して区政が開始。焼きさんまが無料で振る舞われることで有名な「目黒のさんま祭り」は、落語の題目である「目黒のさんま」から着想を得て、目黒駅前商店街振興組合の青年部が平成8年から開催。今年で28回を数える。
従前のシステムでは、費用と作業負担が大きかった
―目黒区がマルチベンダー化を図った経緯を教えてください。
従前は、ほかの自治体で導入実績のあるオールインワンパッケージを採用し、当時の業務フローに合わせ、大幅にカスタマイズしていました。一部のシステムでは、プログラムの根幹にもカスタマイズを行ったため、制度改正などに伴うシステム改修では、別途費用が発生するだけでなく、ユーザー検証に多大な労力がかかっていました。また、同パッケージ本来の強みであるシステム間のデータ連携が、過度なカスタマイズによって複雑化し、改修の際には十分な配慮が必要で、業務効率化に向けた改修が困難になっていました。加えて、異動や退職など職員情報の変更があるたび、担当者が手動でデータを更新するなど定型作業の負担もありました。こうした課題の解決に向け、令和元年度より新システム導入の検討を始めました。
―どのような検討をしたのですか。
業務ごとに最適なシステムを調達できるマルチベンダー化を重視した検討を始めました。しかし、単に「業務ごと」の目線でシステム調達を行ってしまうと、各システムが独立しているため、以前よりもデータ連携の作業が煩雑になってしまいます。そこで、各システムをつないでハブ化する「統合基盤」が必要になりました。
当時、自治体で「統合基盤」の仕組みを導入している事例が見当たらなかったため、令和元年秋頃からRFI*などを積極的に実施し、「統合基盤」導入の実現性について情報収集を行いました。その結果、システム間のデータ連携を自動化できる点や、接続できるシステムが豊富な点などを評価し、フォーカスシステムズ社を選定、令和4年9月から運用を開始しています。
*RFI:「情報提供依頼」のこと。民間企業に対して、技術情報や製品情報の提供を依頼するための文書
柔軟なシステム選定が可能に
―導入効果はいかがですか。
この「統合基盤」では、職員情報などのマスタデータを一元管理し、ひとつのシステムでデータに変更を加えても、ほかのシステムに自動で同期されます。そのため、以前は定型作業となっていたデータ更新などの手作業がほぼゼロになり、職員の負担は大幅に軽減されました。また、制度改正などに合わせた改修でも、システム間のデータ連携は統合基盤側で対応するため、各システムの改修は最小限で済み、費用も大幅に削減することができました。さらに、基盤のアダプタが豊富で適合するシステムの選択肢が広く、主管課のニーズに沿った柔軟な選定が可能です。すでに文書管理・人事給与・庶務事務・財務管理で各業務に適したシステム調達を実現しました。
―今後の展望を聞かせてください。
現在、「定型作業の100%自動化」を目標に、種々の業務への効果拡大を図っています。今後も「統合基盤」の活用で、各業務に最適なシステム調達を進め、住民対応などに割く職員の時間を増やすことで区政の充実を目指します。
拡張性の高い「統合基盤」なら、業務に適したシステム調達が可能に
株式会社フォーカスシステムズ
デジタルビジネス事業本部 デジタルコンサルティング事業部 BPRソリューション部 技術課長
松村 光裕まつむら みつひろ
昭和58年、静岡県生まれ。平成20年、株式会社フォーカスシステムズに入社。入社時よりさまざまな業界に向けてソリューション開発業務に携わる。その後、プロジェクトマネージャーとしてお客様相談窓口やプロジェクトの管理業務に従事。
―自治体が活用する庁内事務システムの現状を、どのように捉えていますか。
オールインワンパッケージを採用している自治体が多いと感じています。本来、同パッケージはデータ連携や低コストに強みがありますが、業務とシステムの仕様が合わないと、システムに対応する業務を追加するか、システムのカスタマイズが必要になり、作業負担や運用コストも増加する傾向があります。また、あらゆるシステムを同一ベンダーに依存するため、個々の業務の最適化が図れないままシステムを使い続けなければならないケースもあり、職員の負担が増える例も見られます。
―どう解決すればいいでしょう。
当社では、マスタデータと各システムを自動で同期できる「統合基盤」を用いたマルチベンダー化を推奨しています。目黒区では、マスタデータの管理基盤とインターフェースに『intra-mart®』、各システム間のデータ連携に『ASTERIA Warp』で構成しました。この構成の特徴は、他社の多様なシステムを接続できる拡張性の高さと、申請業務などを自動化するワークフロー機能にあります。これにより、業務に適したシステムを複数社から個別調達し、勤怠情報からの給与計算、明細の配付といった一連の業務を完全自動化しました。
―今後、どのように自治体を支援していきますか。
当社は独立系SIerのため、製品ブランドの垣根なく、最適な解決策を提案できます。プランニングから納品、運用まで二人三脚で伴走支援をしていきますので、ぜひお声がけください。