【コミュニティ育成・集客】「音楽の力」で日常を楽しむ県民の姿を、地域の「賑わい創出」の原動力に
(音楽の街づくりプロジェクト(おとまち) / ヤマハミュージックジャパン)


※下記は自治体通信 Vol.64(2025年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
あらゆる自治体が、地域の魅力や活力を高めるためのまちづくりを模索しているなか、県をあげて「音楽を活用したまちづくり」に取り組んでいるのが福井県だ。同県知事の杉本氏は、「音楽には人と人をつなぐ力がある」と語り、音楽の力によって、賑わいの創出や交流人口の拡大に向けたまちづくりを推進している。その狙いについて、同氏に話を聞いた。

日々の暮らしのなかで、音楽に触れられる環境を用意
―福井県では「音楽によるまちづくり」を進めているそうですね。
はい。ヤマハミュージックジャパンと連携協定を結び、令和3年度から「おとまち@福井プロジェクト」を福井県文化振興事業団とともに進めています。当県では以前から、令和6年3月の「北陸新幹線福井・敦賀開業」に向けて、まちなかでの賑わい創出を地域の活性化に結びつける施策をさまざまな観点から検討してきました。その一環として「文化・スポーツ」の領域で進めた施策の1つが、「音楽の活用」でした。音楽には「人と人をつなぐ力」「人の心を動かす力」があります。その力を信じ、多くの県民が音楽に触れることで、地域の賑わいや交流人口が創出されるのではないかと期待したのです。
―具体的にどのような取り組みを行っているのですか。
県内の市町と連携して、「音楽サークルの設立・運営支援」「楽器体験会の開催」「ドラムサークル*活動の支援」などの取り組みを行っています。いずれにも共通しているのは、初心者の方々でも気軽に参加でき、音楽を楽しめる内容にしている点です。地域での自発的な音楽サークルの設立・運営を県が応援する事業は、これまで7市町で推進されています。そこでは、日々の練習だけでなく、地元のイベントに出演して演奏を披露するなど、その後の発展的な活動につながっています。楽器体験会やドラムサークル活動でも多くの初心者が音楽の楽しさに触れています。
令和6年4月に策定した福井県文化振興プランでは、県民に「文化芸術に触れ合い、心豊かに暮らしてもらう」ために、「自ら参加・創造」してもらうことを「目指す姿」の1つとしていますが、「音楽」はまさに、その姿を体現するものだと改めて感じています。
―今後の方針を聞かせてください。
今後も、多くの県民が日々の暮らしのなかで音楽に触れ、自ら参加できる環境を用意していきます。音楽を通じて日常生活に楽しみや感動を得て、心豊かに暮らせるようになる県民の姿こそが、地域の賑わいや交流人口を創出する原動力になると期待しています。
*ドラムサークル: 参加者が輪になり、即興的に演奏する打楽器・パーカッションのアンサンブル。打楽器を叩くというシンプルな動作のため特別な技術は不要で、音楽経験などに関係なく気軽に楽しめる特徴がある

ここまでは、県をあげて「音楽によるまちづくり」を進めている福井県の狙いについて、知事の杉本氏に話を聞いた。ここでは、実際にどのような形で取り組みを推進しているのか、担当局である文化・スポーツ局局長の猪嶋氏を取材した。

活動の輪の広がりから、音楽の「生活への浸透」を実感
―「音楽によるまちづくり」について、現在までの具体的な取り組み状況を教えてください。
知事の話で出たように、令和3年度から3つの取り組みを中心に、あらゆる方々に音楽に触れてもらえる機会を提供するまちづくりを進めています。「音楽サークルの設立・運営支援」では、県内の市町と連携し、現在7つの市町で取り組みが進んでいます。令和5年度末までに合計166人が各サークルに所属しており、そこでは「吹奏楽」「クラシックギター」など演奏楽器は地域の個性を反映する形でサークルごとに自ら選定して活動しています。
「楽器体験会の開催」は、各地のイベントや商業施設などで、トランペットやバイオリンといったさまざまな楽器を実際に演奏できる機会を提供する取り組みです。令和5年度末までに延べ1,255人が楽器を手にしました。
「ドラムサークル活動の支援」については、「福井県連合婦人会」が行っている活動を支援しているもので、現在までに延べ1,680人が参加しています。演奏が難しくないため、誰でも気軽に参加できると好評です。
―これらの取り組みからは、どのような成果が得られていますか。
活動の輪の広がりから、県民の日常生活に音楽が着実に浸透してきていると感じています。たとえば、初年度は4つだった音楽サークルは現在7つに増え、活動を重ねた各サークルがその成果を発表する場として、「ジョイントコンサート」を毎年合同で開催できるまでになりました。今ではそこでの演奏が各サークルの大きな目標になっていると聞きます。また、楽器体験会では、楽器の楽しさを知った参加者が地域の音楽サークルに入団するといったケースも生まれています。
「音楽によるまちづくり」を推進するうえでは、取り組みが生活に浸透し、自然発生的に広がる仕組みづくりこそが重要です。そうした取り組みの「自走化」において事業パートナーであるヤマハミュージックジャパンの支援を実感しています。
地域への「伴走支援」で、運営ノウハウを落とし込めた
―具体的にどのような支援を受けているのですか。
同社にはまず、楽器の貸し出しや、人的ネットワークを駆使した講師の派遣などを通じて、音楽活動の「場の創出」を支援してもらっています。さらに、同社の「音楽の街づくり事業」のノウハウは、それぞれの取り組みにおいて参加者たちが音楽に触れ、心から楽しめる環境づくりに大きく寄与してくれていると評価しています。
そもそも、「音楽によるまちづくり」について、なにからどう始めるのが効果的なのか、我々にはまったくノウハウがありませんでした。そのため、連携協定の終了後も活動が継続していけるように、同社には「伴走支援」によって運営ノウハウを地域に落とし込むサポートを受けてきました。その成果が表れており、すでに4つの市町の音楽サークルは自走にこぎつけ、ドラムサークルでは、講師役のファシリテーターを養成する研修も取り入れるなど、自走の準備を進めています。
―「音楽によるまちづくり」の先に、どのような福井の未来を描いていますか。
音楽というコミュニケーションツールでつながった人々によって、強い絆を持ったコミュニティがつくられていくような地域の未来を描いています。音楽によって結ばれた人々が互いを支え合い、賑わいを生み出していく、そんな地域は外部の人々をもきっと惹きつけると思うんです。福井の県民性を表す言葉に「引っ込み思案でアピール下手」というものがありますが、音楽に親しみ自分を表現する県民の姿は、「福井は楽しい場所」という魅力をアピールする最高のシンボルになるのではないかと思います。

これまでは、「音楽によるまちづくり」を推進している福井県の事例を紹介した。その取り組みを支援しているのが、ヤマハミュージックジャパンである。同社の増井氏は、「まちづくりに音楽を取り入れたいと考える自治体が増えている」と語る。その理由とは。また、どのように進めればいいのか。同氏に詳しく聞いた。

音楽によるコミュニティが、地域の「新たな基盤」に
―「音楽によるまちづくり」に関心を持つ自治体が増えているのはなぜでしょう。
まずは「ストリートピアノ」が象徴的ですが、音楽を「身近な存在」に感じることができるきっかけが増えているのが大きいですね。文化ホールなど立派な施設で行う音楽だけでなく、まちなかから聞こえる「音色(音楽)」を活かしたまちづくりも有効だと、気づき始めているように感じます。聞こえてくる音楽に吸い寄せられるように人が集まれば、それだけで賑わいは生まれます。集まった人たちがその様子をSNSなどで発信してくれれば、まちの魅力が拡散され、そこから新たな賑わい創出にもつながります。
もちろん、文化ホールなどで行う音楽には遠方から人を呼び込み、交流人口の拡大や地域の活性化に直接的に寄与するのはいうまでもありません。自治体における音楽の活用の広がりは、第一義的には、こうした「賑わいが生まれるまちづくり」への期待が背景となっていますが、まちづくりにおいて発揮される「音楽の真価」とは、それだけではないと私たちは考えています。
―ここで言う「音楽の真価」とは、どのようなものですか。
それぞれの地域が抱える「課題」を、自らが解決できる力を持つ地域コミュニティをつくりだすうえで、音楽が持つ「人と人をつなぐ力」が重要な役割を果たせると考えているのです。全国で広がっている「ドラムサークル」の事例が典型的ですが、そこではセッションが終わると必ずと言っていいほど、参加者たちの間に会話が自然に生まれ、いつの間にか面識のない人同士で世間話が弾んでいる光景を目にします。
私たちは「心の扉が開かれる」と表現していますが、人と人が一瞬でコミュニケートできてしまう音楽の力が生み出すコミュニティの絆は、担い手不足が指摘される地域の新たな基盤になり得ると考えています。

音楽の力で「高齢者の孤立」も解消へ
―具体的にどういった役割が期待できるでしょう。
たとえば、福井県との取り組みで立ち上がった音楽サークルの年齢層は、10~80代です。老若男女いろいろな人が参加することができる音楽サークルは、「高齢者の孤立」を解消する場になり得ます。また、子育てや進学で悩む人にとっては、「悩みを共有・相談できる場」にもなるでしょう。さらには、「日曜日にごみ置き場を掃除しよう」「防犯パトロールが必要だと思う」など、地域を支える活動への積極的な意欲を喚起する場にもなると考えています。私たちは「地域コミュニティの再生」と表現していますが、こうしたコミュニティをつくりだすことができるのも、そこに「人と人をつなぐ力」を持つ音楽が介在されるからこそだと考えています。
そこで当社では、「賑わい創出」はもちろん、「地域コミュニティの再生」につながるまちづくり活動を支援しています。

「集客目的」「活動定着」の2つの支援メニュー
―支援内容を具体的に教えてください。
「おとまち」という事業名称で、「集客目的型」と「活動定着型」の2つの支援メニューを用意しています。大きく区別すれば、「賑わい創出」が前者で、「地域コミュニティの再生」に向けた支援が後者になります。
「集客目的型」の支援の代表的なものが、ストリートピアノ『LovePiano』です。「設置するだけで賑わいが生まれる」と多くの自治体に好評で、カラフルなペイントを施したピアノを提供し、情報発信の協力や、要望に合わせて演奏家派遣など同時開催のイベントも提案しています。そのほか、特に力を入れているのが、「ブラス・ジャンボリー」という住民参加型「吹奏楽の大合奏会」の開催支援です。
―どういったものでしょう。
地域住民で構成される100~500人規模の吹奏楽アンサンブルで、「周年記念事業」を盛り上げるイベントの1つとして開催されるケースが多い催しです。代表的なところでは、福井県では音楽ホールの「開館25周年事業」で、川崎市(神奈川県)では令和7年3月に「市制100周年事業」で開催されます。全国から吹奏楽ファンが集まることで、交流人口の拡大につながります。
音楽はまちづくりに「欠かせない存在」
―「活動定着型」についても教えてください。
先に述べた、「音楽サークル」や「ドラムサークル」のほか、地域を代表する本格的な「地域コミュニティバンド」の運営支援を行っています。そこでは、活動の「場づくり」や、各種楽器の準備、講師の派遣など運営に必要なリソースを提供しますが、支援するうえで当社が重視していることは、それぞれの活動の「自走」です。ヤマハが持つ音楽に関するノウハウを活用し、活動を「伴走」することで、支援終了後も、まちづくりを持続的に推進できる基盤をともにつくりあげていきます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
まちに「賑わい」や「コミュニティ」を生み出す音楽は、住民が安心して住み続けられる、夢と希望が持てるまちづくりにとって、「欠かせない存在」だと捉えています。当社はさまざまな支援メニューを用意していますので、地域の課題に合わせてまずはお試しいただきたいと思っています。ぜひお問い合わせください。


発足 | 平成25年4月 |
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資本金 | 1億円 |
売上高 | 422億円(令和6年3月末現在) |
従業員数 | 1,617人(令和6年9月末現在) |
事業内容 | 国内における楽器・防音室・音響機器販売および教室事業 |
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