―『伊達ウェルシーランド構想』とはどのような取り組みでしょうか。
伊達市は少子高齢化が加速していくなかで、高齢者が安心・安全に暮らせるまちづくりを進めています。高齢者ニーズに応える新たな生活産業を創出し、働く人たちの雇用を促進しつつ、豊かで快適なまちづくりを目指す取り組みです。
平成14年に官民協働による「伊達ウェルシーランド構想プロジェクト研究会」を発足し、以降さまざまな事業を行ってきました。
―行ってきた事業の詳細を教えてください。
大きな取り組みとして、3つの事業があげられます。まず、平成17年に施行した「伊達版安心ハウス」という制度です。
当時は、「サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)」がまだない時代。老人ホームはあるものの、それ自体の居住面積が国の基準では狭いため、「高齢者の方が将来ずっと住み続ける施設として適しているのか」という観点から協議がスタート。
そうした結果、入居者が快適に生活できる床面積を確保しつつ、高齢者が安心・安全に暮らせるサービス、たとえば「緊急通報サービスや共同で利用できる食堂や浴場の設置がされているか」など、当市が定めた要件に合致する建物に対し、認定を与える制度をつくったんです。市は一切お金を出しませんが、PRなど普及啓発に努める制度です。
現在、2棟65戸が建っていて、入居率は変動があるものの7割前後といった状況です。
―2つ目の事業はなんでしょう。
「優良田園住宅」という事業です。これは平成10年に国から施行された「優良田園住宅の建設の促進に関する法律」、いわゆる田舎の田園地帯のなかにある農地を転用して、宅地造成ができる制度を活用。もともと遊休地だった市有農地を当市の建設協会が組織した協同組合に売却。伊達市優良田園住宅「田園せきない」として販売したんです。
実際に販売を開始したのは、平成20年から。まずは土地の申し込みから受け付けたのですが、区画によっては抽選になるくらいの盛況ぶりでした。ただ、同年の秋にリーマン・ショックが起こり、その影響で予約を解除する方が続出。一時はどうなることかと危惧されましたが、平成24年には53区画すべて完売しました。
全国で同様の取り組みをされている自治体は数多くありますが、国から「全区画販売した事例は少ない」という話はお聞きしています。
―3つ目の事業を教えてください。
ライフモビリティサービスです。これは、いわゆる乗り合いタクシーですね。60歳以上の方を対象とした会員登録制にして、相乗りにすることで利用単価を下げつつ、事業者の利益は下がらないという仕組みです。一般的にはコミュニティバスという考えもありますが、「ドアtoドアでより利便性向上も視野に入れた制度設計が必要だ」という発想からタクシーを選択しました。
平成18年に伊達版ライフモビリティ「愛のりタクシー」として運行を開始。登録者数が60歳以上の人口の14%にあたる約2,000名で、年間1万5,000件ほど運行されています。しかし、相乗り率が伸びず、ビジネスとして独立できていないため、相乗りの認知度向上や予約方法の改善など、まだまだ課題があると感じています。
―そうした取り組みを重ねた結果、本州から多くの高齢者を移住に導くという結果につながったのですね。
そうですね。移住者が増えたかどうかといった定量的な数値の集約は行っていないのですが、そういった結果にはつながっていると思います。また、ささいなことかもしれませんが、移住してきた方が自治会の役員を担われて、サークル活動など積極的に行われるようになりました。移住者に地域住民が引っ張られるカタチで、活性化している区域も見受けられます。
―『伊達ウェルシーランド構想』という発想にいたった経緯を教えてください。
現在の市長である菊谷(秀吉)が初就任したのが、平成11年の5月。当初から予算が少ないうえに、翌年の3月に有珠山が噴火。必死に災害対策を行うも、地域経済も低下するような状況でした。そんななか、「市の財政を使わなくてもできる取り組みはないか」と、市でいろいろ検討していたんです。
ちょうどその時期にNTTデータ経営研究所が主催している「生活産業情報懇親会」に菊谷が参加。そこで、当時小泉内閣の内閣府特別顧問をされていた島田晴雄先生とお会いしたんです。島田先生とお話をするなかで「人の誘致ならお金がなくてもできるのでは」というイメージがわき、それがきっかけで「官民連携というカタチで民間の力を最大限に活用したまちづくりの施策が打てないか」ということで検討を始めたのがこの構想なんです。
―どのようにして構想を具体化していったのですか。
構想を進めるうえで、検討協議会を立ち上げました。まずは行政が主導するという体裁を取りつつも、50歳以下で市内の金融・住宅・不動産・福祉など各分野で活躍する民間の方に参加をつのり、若い考えのもとで構想を策定。行政が財政的に余裕のない状況でしたので、極力民間の方にかかわっていただくことにより、公共からの財政出勤がないようなカタチで検討を進めていきました。
―人の誘致ということで、高齢者を対象にしたのはなぜでしょう。
当時は、ちょうど団塊の世代の大量退職が間近に控えている時期。また、「定年を迎える前に退職し、自分のやりたい生活をする」というライフスタイルがクローズアップされ始めていました。そういう方々はアクティブに活動しますし、経済的にも時間的にも余裕がある。まちに入って経済活動をしたいただくことで、さまざまな効果が生まれるのではないかと期待したのです。「高齢者を誘致することで医療費や介護費の増大につながらないか」という意見は出ましたが、実際にやってみるとそうした結果にはつながらなかったため、マイナスの声は自然となくなっていきました。
―移住促進で成果を出すポイントはなんですか。
「人口を増やすにはどうすればいいか」という観点で検討しないことです。人口を増やすことに縛られると、なかなかアイデアも出にくいですし、話が進みません。今回の当市の取り組み自体は人口を増やそうとして始まったものではなく、「高齢者が住み続けたいと思うまちをつくろう」というのが原点。それによって生活産業が創出され、それを担う若者も転入・定住できるようにしていこう、と。それを目標設定したことが、ある程度の成果につながったのだと考えています。
来てもらったときに、「このまちイイね」と思ってもらえる環境をつくることが大事なんです。
―今後の取り組み方針を教えてください。
引き続き、アクティブシニアをターゲットにした移住の推進は今後も続けていきます。『ウェルシーランド構想』自体は協議会も発展的解散し、いったん整理されました。これからはこの構想でできあがったものを土台にして、さらに進化した事業を進めていこうと考えています。
またこうした取り組みは、知名度やPRという部分で考えた場合、単独で行うには限界があります。そのため、これからは近隣自治体と協議を進めて、地域という面で取り組みを行っていく予定です。現在、隣の室蘭市を中心に3市3町で定住自立圏を構成。各地域の個性や魅力を活かしながら互いの弱点を補完していき、圏域での「日本版CCRC」を目指していきます。