タブレット端末導入の授業に94%が「楽しい」と回答
―「教育立市ぎふ」を掲げる岐阜市では、どのような取り組みを行っているのですか。
「教育立市ぎふ」を掲げたのは、平成18年。以来、ICT教育など多岐にわたり変革を進めてきました。まずは50型のデジタルテレビを市内の全小・中・特別支援学校に配置。平成25年度には、全デジタルテレビを電子黒板化、デジタル教科書を全小・中学校で整備しました。また平成26年度からタブレット端末の導入を開始し、現在は全小・中・特別支援学校に4100台を導入。これにより、本市の教育用パソコンは児童・生徒3・4人に1台となり、国が目標に掲げる3・6人に1台を中核市のなかで最速で達成しました。
―授業では、タブレット端末をどのように活用しているのでしょう。
端末上でドリル学習をするだけでなく、授業での気づきをみんなで意見交換したり、実験の様子を改めて映像で見返すことなどにより、「アクティブ・ラーニング」を促進。また、特別支援学校でのタブレット端末の活用では、障がいの程度や個々の学習進度にあった教材選択ができるのも大きな特徴です。
さらに、全22中学校で「アゴラ」と名づけたアクティブ・ラーニング用のスペースを整備。タブレット端末を使って、考え、議論し、発信する場として活用されています。
生徒を対象としたアンケートでは、94%が「タブレット端末を使った授業は楽しい」と答え、90%が「タブレット端末を使った授業はわかりやすい」と回答しました。
教育だけにとどまらない子どものための場所を提供
―ICT教育以外にチカラをいれていることはありますか。
英語教育があります。平成16年度には、全国に先駆けて小学校からの英語教育を導入。3~6年生には教科として英語の時間を、1、2年生には英語に親しむ英語活動の時間を設けました。また、平成27年度からは、小学校1、2年生でも英語を教科化するとともに、夏休みに4泊5日を英語漬けで過ごす「イングリッシュ・キャンプ」もスタート。今年は約150人が参加し、好評を博しています。
あとは、理数教育にも注力しています。
―どんな取り組みでしょう。
「ぎふっ子からノーベル賞を」を旗印に各種施策を行っています。具体的には、全46小学校にSTEM教員(※)を配置。市立科学館も体験型にリニューアルし、楽しく科学を学ぶための「サイエンスショー」も開催しています。2泊3日を科学漬けで過ごす「サイエンス・キャンプ」も平成28年度からスタート。大変な人気です。
※STEM教員 : Science,Technology,Engineering and Mathematicsの略。岐阜市では、教員OBなどがSTEM教員として各学校を回り、実験などを通して楽しく理数系を学んでもらうための取り組みを行っている
―近年、注目の分野はありますか。
ひとつは、「ギフティッド」と題した才能開花教育です。「ピアノがうまい」「絵がうまい」など、子どもたちの才能をさらに伸ばすための才能開花のきっかけづくりの場を設けています。欧米ではこうしたことは普通ですが、日本では「義務教育は平等であるべき」という声があるため、いまは子ども自身の挙手方式で行っています。
また、次期学習指導要領に先駆け、今年度より「プログラミング教育」を始めました。39の小・中学校がソフトバンクグループの「Pepper社会貢献プログラム」に参加し、Pepperを活用したプログラミング授業を実施しているほか、全小・中学校でプログラミング教育を実施しています。
さらに、学力向上にとどまらず、平成26年度にいじめや不登校などに悩む子どもや若者にかんするあらゆる相談に対応する総合支援センター「エールぎふ」を開設。あわせて子ども専用の連絡先に「秘密は守るよ」と記載した「子どもホッとカード」を作成し、市内の小中高すべての児童・生徒に配布しています。
ほかにも、平成27年度に開設した図書館を含む複合施設「みんなの森 ぎふメディアコスモス」など、さまざまな学びの場を提供しています。
日本の資源は「ヒト」にほかならない
―なぜ、教育に熱心なのですか。
日本の資源は、「ヒト」にほかならないからです。
私は元々商社マンで、アメリカに計12年間いました。それで実感したのは、日本の資源は「ヒト」だということ。石油などの天然資源は、ほぼありません。だからこそ「ヒト」を掘り出し、磨きをかける。それをまずは自治体ベースでやっていくのが狙いです。
近年は、IoTやAIといった分野の成長がいちじるしい。そうした分野でこそ、日本がまず世界に飛び出て当然だと思っています。ところが、アメリカや中国発の成長ベンチャーに遅れをとっている。世界で戦うためには、ICTや英語などは最低限必要なツール。日本発の起業家を育てる意味でも、岐阜市の子どもたちにしっかり教育していこうと考えています。
教育が果たすべき役割は学びの心に火をつけること
―教育施策で、細江さんが大切にしていることはなんでしょう。
教育施策を「やって終わり」ではなく、成果の「見える化」にも取り組んでいかねばならないと考えています。現在は、ベネッセ教育総合研究所との共同研究で、エビデンスに基づく成果検証の方法確立を模索している段階です。まだ英語の分野のみですが、徐々に分野を拡大していく予定です。
また教育とは、知識を詰め込むことではなく、楽しさを伝えたり、動機づけることだと考えています。数年前、教育先進国のフィンランドに行ったときに印象的だったのは、授業終了後に生徒が教科書を学校において帰ることでした。なぜかというと、学校は生徒に教科書の内容を暗記させるのではなく、「勉強がしたい」とうながすことに重点をおいているんです。好きな分野ができれば、いまでは家に帰ってインターネットで情報をえられますから。「勉強は楽しい」「知的好奇心を高めることは楽しい」と教えるのが、教育の本質だと思っています。
―今後の教育方針を教えてください。
われわれ「教育立市ぎふ」のモットーは、「5年先行く教育」。岐阜市が率先して、先を見すえた教育を行っていくという意味を込めています。たとえば、国から「やってください」といわれたから行うのではなく、自治体が主体となってやるべきことを先行して行う。この姿勢こそが、今後は不可欠になってくると考えています。
私はよく「シンギュラリティ2045」の話をします。2045年には「人工知能(AI)が全人類の知識の総和を超える」といわれていますが、その来たるべき時代に向け、人間はAIに使われるのではなく、AIを活かす存在でなくてはいけない。そのため、いまなにをすべきなのか。それを考え、私たちは子どもたちに教育を行うべきなのです。