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将来を担う子どもたちへの投資を。“喬木村流”ICT教育の挑戦

将来を担う子どもたちへの投資を。“喬木村流”ICT教育の挑戦

長野県喬木村 の取り組み

山間地ならではの課題を抱えた自治体の、広い視野での人材教育とは

将来を担う子どもたちへの投資を。“喬木村流”ICT教育の挑戦

喬木村村長 市瀬 直史

長野県の南部、下伊那郡に位置する喬木村。人口が約6000人で、県内屈指のイチゴ産地としても知られている同村が、現在独自のICT教育に取り組んでおり、全国的にも注目されている。実際に、どのような取り組みが行われているのだろうか。村長の市瀬氏に、ICT教育に取り組む背景や、具体的な内容、今後のビジョンなどを聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.13(2018年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

地域の活力となる学校は消滅させてはならない

―喬木村がICT教育に取り組んでいる背景を教えてください。

 大きな要因は、小学校の消滅を回避するためです。

 喬木村には、第一小学校と第二小学校、そして中学校があります。第一小学校はひとクラス約30人のいわゆる適正規模校。一方の第二小学校は、ひとクラス6人ほどの小規模校。中学校は、第一小学校のエリアにあります。

 そして、第一小学校エリアと第二小学校エリアは九十九谷という急峻な山地で隔てられています。もし統廃合で第二小学校がなくなってしまえば、第二小学校エリアのコミュニティ維持が困難になる可能性がありました。地域にとって、学校は活力の源。学校がなくなって、疲弊あるいは衰退していく集落を私は実際にいくつも見てきました。そこで「なんとかしたい」という想いがあったんです。

 また、第二小学校のような小規模集団では、保育園から小学校を卒業するまで、小さくまとまった同じ集団で過ごすことになります。それが悪いとはいいませんが、もっと多様な考えをもった同世代の子どもがいることを知ってもらい、切磋琢磨できる環境を提供したい。こうした課題を「ICTで解決できないか」と考えたのです。

―具体的にどのような取り組みを行ったのでしょう。

 テレビカメラ中継システムと電子黒板システム、タブレット端末連携システムを活用し、第一小学校と第二小学校の授業を同時に行う「遠隔授業」です。両校それぞれにアクティブラーニング教室を整備し、同じ環境で学習できるようにしました。

 テレビカメラでライブ中継をしているので、お互いに相手の表情や考えている姿を実際に見聞きすることが可能。マイクやカメラを見えにくくして、あくまで「一緒に授業を受けている」と感じられるバーチャル空間づくりを意識しました。また、タブレット端末に記入した内容は電子黒板で一覧表示できるので、「枡の測り方は?」などという先生の問いに対し、児童数ぶんの解答が並ぶので多様な考え方が学べます。さらに、解答が黒板に表示されるため、児童はサボることができないのです(笑)。

「給食いらないから勉強を」子どもたちの意欲が向上

―ほかに授業で工夫した点はありますか。

 タブレット端末を使い、グループごとにわけて討論する機会も設けています。30人対6人で話をしては合同で授業する意味がありませんから。グループわけすることで、子どもたちの距離感も近くなり、発言する機会も増えます。

 ちなみに、中学校でもICT化を進めていましたが、両小学校と中学校とのテレビカメラによる遠隔接続も開始。こちらは小学生のうちに中学生と顔見知りになっておくことで、中学校に入学してから馴染むのに苦労する❝中1ギャップ❞を解消するのが狙いです。

―ICTの導入でどのような効果があったのでしょう。

 実際に学力向上につながっているほか、やはり第二小学校の児童は、以前より多くの児童のなかで発言する喜びを実感しているようです。一方で第一小学校の児童も、そうした発言に触発され「自分たちもがんばらないと」という相乗効果につながっているようです。

 この間も公開授業を行い、県外からも大勢の先生が見学に来たのですが、第二小学校の児童が授業に夢中になり「給食いらないから勉強をさせて」というんですよ。これには周りの先生も驚いて。発言できる喜びと、タブレット端末からさまざまな情報を引き出せる喜びで、子どもの目の輝きが違うんですね。

 子どもたちの真剣に学習に取り組む姿が見られるようになり、保護者の方にもおおむね好評です。

いまICT教育をしないと 子どもたちに失礼だ

―そもそも導入する際はスムーズに進んだのですか。

 正直、それなりに苦労はしました。まず、6年ほど前から議員の方ひとりに一台タブレット端末を導入。ICTの利便性と活用の幅を理解いただくことで、予算を認めてもらうよう働きかけました。

 さらに、教育現場の先生にも理解をしていただくことも必要。そのため、正規職員としてICTの支援員を1人採用し、臨時職員の支援員も2人雇用しています。各校を回ってICTに不慣れな先生の授業補佐をしてもらっています。せっかく導入しても、現場の先生が活用できないとムダになってしまいますから。

 そして住民の理解をえるため、「将来の子どもたちのため、ICT環境は重要」ということを説明しました。

 また、予算につきましては、文部科学省の実証事業による補助金とふるさと納税をメインにまかなうことができました。

 「教育」は、どうしても後回しになってしまいがち。「俺がこの橋をつくったんだ」のほうが、わかりやすいですからね。ただ、喬木村の将来を支えるのはいまの子どもたち。将来困らないような生活スタイルを築いてもらうためにも、いまICT教育に注力しないと子どもたちに失礼だと考えたのです。

環境の変化を見すえた視野の広い子どもを育てる

―今後の教育ビジョンを教えてください。

 リニア中央新幹線の開通により、品川駅から約45分で喬木村に着くことが可能となります。また、浜松までつながる三遠南信自動車道の開通もひかえています。こんなチャンスをもらっていながら「喬木村は少子高齢化で疲弊する村だ」なんていっていると、全国の自治体に失礼でしょう。

 そうした環境変化を見すえると、子どもたちが広い視野で、おおげさにいえば世界的視点でものごとを考えられるように育てる使命があります。

 また、移住・定住というのは地方創生の大きなテーマです。できれば、都会の若い子育て世代の方に来てほしい。そこでネックのひとつとなってくるのは、やはり教育です。「こんな田舎でも都会と遜色のない、授業環境があり、成果をあげているんですよ」という武器があれば、移住先として喬木村を選んでもらうきっかけになるんじゃないか。こうした考えも、喬木村の総合戦略の大きな柱になっています。

 喬木村が誕生して約140年。分村も合併もせず、ここまで自立してやってこられたのは「先人の方々が人材教育にチカラをいれてきたからだ」と考えています。これからもICT教育を強化していくことで、喬木村ならではの人材育成を行っていきます。

市瀬 直史(いちのせ なおし)プロフィール

昭和33年、長野県下伊那郡喬木村生まれ。昭和56年に横浜市立大学文理学部を卒業後、喬木村役場に入職。教育委員会事務局長、企画財政課長兼リニア対策担当を経て平成26年に喬木村村長に就任。現在は2期目を務める。

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