※下記は自治体通信 Vol.63(2025年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
前知事の任期途中での辞意表明を受け、令和6年5月、急遽前倒しで行われた知事選挙によって、前浜松市長の鈴木氏が新たな静岡県知事に就任した。4期務めた浜松市長時代の財政再建や企業誘致・産業振興における実績をアピールしてきた同氏は、就任に際し、「オール静岡」による経営感覚を持った県政運営を掲げている。同氏に、今後の県政運営方針について、詳しく聞いた。
鈴木 康友すずき やすとも
昭和32年、静岡県浜松市生まれ。昭和60年、財団法人松下政経塾卒業。民間企業代表を経て、平成12年6月から衆議院議員を2期務める。平成19年5月、浜松市長に就任し、4期務める。その間、令和3年9月には指定都市市長会会長に就任。令和6年5月、静岡県知事に就任。現在1期目。
自治体運営には経営感覚が必要
―令和6年5月、どのような使命感を持って、静岡県知事に就任したのでしょう。
私は4期16年務めた浜松市長時代に、行財政改革や産業政策において一定の実績をあげてきたと評価をいただき、その経験こそ県民のみなさんの負託を受けたところだと認識しています。そうした経験や知見を活かして、これからは静岡県全体をけん引すべく、議会や県内の首長のみなさんと手を携え、「オール静岡」で「県民幸福度日本一」の静岡県をつくることこそ、私の使命だと思っています。その際には、私のスローガンの1つでもある「巧遅より拙速」の精神、つまり、取り組みにおけるスピード感を意識しながら、課題に向き合うことが重要だと思っています。
―就任からこの間、その意識はどのように発揮されてきましたか。
たとえば、リニア中央新幹線の問題に関しても、就任後、即座に国土交通大臣や東海旅客鉄道(以下、JR東海)の社長、さらには大井川流域の首長のみなさんと面会し、意見交換をするなどスピード感を持って取り組んでいます。3分野28項目に整理した課題をJR東海との対話で解決できれば、リニア整備の推進と、大井川の水資源、南アルプスの自然環境の保全との両立への条件の1つはクリアすることになります。
そのうえで、リニアは今後何十年も続く事業ですから、将来何か起きた場合の対処も考えなければいけません。同社にその責任を担保してもらうために、国にも関与いただき、明文化する必要があると考えています。
―「巧遅より拙速」という価値観は、よくビジネスの現場で重んじられるものですね。
「自治体運営には経営感覚が必要だ」というのが私の持論ですが、その根底には恩師である松下幸之助さんの教えがあります。税金を元手とする事業で最大限の効果を追求し、県民をはじめとするステークホルダーに還元し、満足を獲得していく。このプロセスは、まさに「経営」そのものだと思うんですね。県民のみなさんからお預かりした税金を元手に事業を推進していくわけですから、そこに無駄や非効率があってはいけません。この経営感覚は、今後の県政運営においても変わることはありません。
静岡特有の「地域性」こそ強みになる
―今後の県政運営において、最重要課題はなんですか。
「人口減少対策」「産業政策」「防災対策」の3つを重要分野に設定しています。これはそれぞれ、現在策定に向けて議論を進めている「次期総合計画」の中で掲げる3つの政策体系において、柱と位置づけられる政策テーマです。
人口減少対策については、いまや全国的な課題であり、本県にとっても直視すべき最重要課題の1つです。仮に将来、出生率が人口置換水準の「2・07」に戻ることがあったとしても、そこからさらに20年ほどは人口が減り続けることを覚悟しなければなりません。ですから、人口減少を前提としつつ、いかに活力のある地域をつくっていくかを考える必要があります。そのために、こども・教育政策などに力を入れていきます。
また、県民を守る防災対策は重要であり、県政運営の基盤となる安心・安全な県土づくりを進めていきます。
―産業政策については、どのように考えていますか。
産業といっても、ものづくりだけではなくて、第一次産業、第三次産業も含めた産業全体の活力を生み出していく必要があります。
その際、念頭に置くべきは、地域性です。静岡県は県域が東西に伸びる地理的な特徴や明治期の県発足の歴史から、東部・中部・西部でそれぞれ異なる特徴があります。東は首都圏と比較的結びつきが強く、西は文化的にも産業的にも中京圏との関係性がきわめて強いです。
この地域性の違いは従来、県政運営上の難しさと捉えられてきましたが、私は逆にこの地域性の違いこそ、強みにもなり得ると考えています。その強みを活かせる分野の1つが、まさにこの産業政策なのです。
産業政策は「地方創生」を体現するテーマ
―詳しく聞かせてください。
たとえば、産業政策の主軸の1つとするのは、スタートアップの集積化です。世界的に見ても、経済成長を遂げている地域は、ほぼ例外なくスタートアップの集積がみられ、これがさまざまな相乗効果をもたらし、地域経済を活性化させています。この施策を進めるにあたっては、伊豆地方に代表される県東部は日本でもっとも有望な地域の1つだとみています。地理的な近さに加え、自然環境や温暖な気候、温泉などの観光資源にも恵まれ、首都圏との「二拠点居住」や同地域からのスタートアップ誘致には絶好の条件が揃っているからです。
一方、県西部に目を向ければ、ものづくり産業の集積が進んだ浜松市があり、県中部には、工業出荷額で浜松市を上回る静岡市があります。こうしたものづくりの豊かな産業基盤は、今後半導体や医薬品といった成長産業を誘致していく際の大きな優位性になり得ます。県内には、広大な用地を有し、都市部からのアクセスの良さや豊富な水資源を誇る富士山麓地域など、企業誘致に大きなポテンシャルを秘めた地域があります。「地方創生」に対する私の定義は、「それぞれの地域の特性や資源を活かし、知恵も出し、汗もかいて、自らの力で地域を元気にすること」ですが、こうした地域の強みを活かした産業政策こそ、その考えを体現していくべきテーマになります。
人々の満足度を測る、ウェルビーイング指標を導入
―これらの次期総合計画を推進するにあたっても、重要になるのは「経営感覚」ですか。
もちろんです。その表れとして、次期総合計画では、人々の満足度を測る「ウェルビーイング指標」を政策の充実・強化のために導入していきます。我々のもっとも重要な政策目標が「県民幸福度日本一」である以上、ステークホルダーである県民の「主観指標」は経営には重要な要素にほかなりません。行政の自己満足で終わらない、県民目線の行政運営を追求していきます。