災害復興業務にともないマンパワー不足が露呈
―宇城市が、RPAを活用した業務改革に取り組んだ背景を教えてください。
やはり契機は、平成28年に起こった熊本地震ですね。災害復興業務に対応するため、職員の負担が一気に増えました。当初は、男女関係なく、コンクリートの床に一週間寝泊まりするような過剰な労働が続きましたから。ありがたいことに、ほかの自治体から職員の方が支援に来てくれましたが、それでも全然追いつかない。絶対的な、マンパワー不足だったんです。
平成28年の前半までは、眼の前の業務に追われて、まったく対策ができない状態でした。その後、RPAの導入が民間企業で進んでいることを知っていた若手の職員から提案を受け、「マンパワー不足が解消されるなら、ぜひ進めてもらいたい」と承諾。平成29年3月から、検討を始めたんです。
―どのように導入を進めていったのでしょう。
まずは、提案をした若手が所属している市長政策室が主体となり、「どの業務にRPAを導入すれば適切か」という調査分析を、地元シンクタンクの協力をえながら行っていきました。その結果、最終的に「ふるさと納税」「時間外申請」の2業務が適していると判断。どちらも定型的な業務に忙殺されることが多いため、導入しやすいだろうと。
そして、シンクタンクから紹介された民間企業の協力をえて、平成29年6月から実証実験を開始しました。なお、この取り組みは、平成29年度における総務省の業務改革モデルプロジェクトに「RPA等を活用した窓口業務改革」として採択。そして、一連の取り組みが評価され、平成29年12月に「地方自治法施行70周年記念総務大臣表彰」を受賞しました。
相乗効果を期待して6業務で本格導入へ
―実証実験を行った結果はいかがでしたか。
たとえば「ふるさと納税」における実証実験の結果は、年間で削減できる時間は349時間、5年間の費用対効果額はマイナス11万円という数字が算出されました。あくまで目安の数値ですが、費用対効果がマイナスに。プラスに転化させるには、より多くの業務に一括して導入し、相乗効果を狙う必要がある。さらに、もっと長期にわたって継続していけば、より効果を高められるだろうということが考えられました。
―その後、どのように取り組みを進めていったのでしょう。
この結果を受けて、他業務も含めた本格的なRPAの展開を図ることにしました。平成30年度にプロポーザルを実施し、結果的に「ふるさと納税」「臨時非常勤の職員給与」「会計」「後期高齢者医療の保険料」「住民異動」「水道料金の催告」の6業務で導入することに。本格導入という点では、当市が国内初の事例になりますね。
平成31年4月から本格導入する予定ですが、すでにシステムが完成した事業から徐々に導入が始まっています。年間で削減時間は約1700時間、初年度の費用対効果額は約60万円を見込んでいます。
―まだ導入したばかりですが、実感できる効果はありますか。
いちばん最初に導入したのが「後期高齢者医療の保険料」ですが、いままで職員が通知書を作成するのに半日くらいかかっていました。それが、導入後にわずか6分で終わったんです。これにかんして、担当職員はかなり喜んでいたそうですよ。
課題は今後出てくるでしょうが、まだそれを探す段階ではありません。いまは、「半日かかるのが6分」という事実をほかの課で働く職員が知ることで、まずRPAの価値を感じてもらいたいですね。そして、「ウチの業務にも入れられるんじゃないか」というような、意識改革につながればいいと考えています。
またRPAを導入することで、作業のスピードアップにつながるのはもちろん、別の効果にも期待しているのです。
「宇城市に貢献したい」その想いを発揮してほしい
―それはなんでしょう。
市の職員に、より価値判断が必要な場面でチカラを発揮してもらえるようになることです。
自治体で行われる事務作業は、非常に大事な業務です。たとえば、公的な各種証明書類を作成するのは住民にとってとても大切なことであり、決して手を抜いてはいけません。ただ、RPAあるいは民間で作業することが可能な業務であればおまかせし、「この場合はどうすれば住民のためになるのか」「どんな企画を立案すれば住民がもっと暮らしやすくなるか」といった職員でなければできない、宇城市のためになる価値判断が必要な環境にもっと身を置いてもらいたいのです。
―そうすることが、いちばん住民のためになるからでしょうか。
当然、それもあります。ただ結果として、それが職員における行政のやりがいやおもしろみになっていくからです。
そもそも宇城市役所で働くことを決断した職員には、「宇城市のために貢献したい」という想いがあるはずなんですね。それでも、「いわれたことを忠実にこなして、定時になれば帰宅する」という公務員像をもつ人がいます。それが、決して悪いとはいいません。ただ、日々の業務に一歩踏み込んで、「これって、もう少しこうしたらいいのでは」と考えることが、自身の仕事を深め、それが住民の幸せ、ひるがえって自身の幸せにつながっていくのです。
職員にはそうした幸せな環境があることを自覚してもらい、価値判断の感性と能力を磨いてほしいと思っています。
RPA導入を進めつつ「行政の醍醐味」を推奨
―RPAにおける、今後のビジョンを教えてください。
引き続きRPAの導入を進めつつ、職員に価値判断がともなう業務を推奨していきたいですね。そもそも、RPAが導入につながったのも若手職員の提案がきっかけでしたから。
元来、公務員はマジメな人が多いぶん「仕事を楽しもう」とはなかなか考えないと思うんですね。だからこそ、ただ上からいわれて行動するのではなく、価値判断ができる業務を体験することで仕事の楽しさを知ってもらいたい。それが行政の醍醐味であり、RPAがいい意味でその一助になってほしいと考えています。