※下記は自治体通信 Vol.27(2020年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
働き方改革による業務効率化の観点から、実務だけではなくオフィスのあり方自体を見直す自治体が増えている。そんななか、官公庁オフィスの環境整備を手がけているコクヨの八上氏は「頻発する自然災害や今回の『コロナ禍』により、オフィスのあり方をさらに見直す必要がある」と話す。これから自治体に求められるオフィスとは、どのようなものか。同氏に聞いた。
業務効率化にくわえ、もう一歩踏み込んだ発想
―これから、自治体に求められるオフィスとは、どのようなものでしょう。
それは、「フェーズフリー」という概念にもとづいたオフィスです。フェーズフリーとは、「日常時」と「非常時」を連続しているものとしてとらえる考え方です。「日常時に使用しているものが非常時にも役立つ」、もしくは「非常時に役立つものが日常時にも活用できる」という発想なのですが、「日常時の住民サービス向上」と「非常時における業務継続」が求められる官公庁オフィスにとって、非常に親和性の高い考え方と言えます。
ひと昔前の官公庁におけるオフィスは、みんなが同じ時間に集まって仕事をするのが普通でした。それが、業務効率化が叫ばれるようになり、自治体においても多様な働き方ができるオフィスが求められるように。さらに近年では、大規模災害対応やBCP強化も自治体の喫緊の課題となっており、いままさにフェーズフリー発想のオフィスづくりを進めていくべきなのです。
―そうしたオフィスを構築する際のポイントはなんですか。
いちばん重要なのは、まず「日常時」の働き方を進化させる場であること。そして、そこに「非常時」における視点を付加することによって、新たな価値が生まれるのです。これまでの庁舎では、日常時と非常時で空間や備品を区別して考えていましたが、たとえばそれが非常時にしか使えないものでは、日常時ではムダになってしまいます。フェーズフリーの概念では、「日常時の価値向上をもたらし、かつそれが非常時にも活用できる」という発想で場づくりを行うのです。そのためには、スペースや家具の機能化・共有化・集約化などが重要となります。
―たとえば、どのように場をつくればいいでしょう。
場づくりの一例として、今年3月に「働き方改革」の一環で、本庁舎内に構築された神戸市のサテライトオフィスを紹介します。このオフィスは、多様で柔軟な働き方の実現やコミュニケーションの推進といった目的でつくられました。そして、スペースを整備した直後に「コロナ禍」になったのです。
このサテライトオフィスは、本庁舎外に勤務する職員も活用できるよう、ABW(※)対応の多様で柔軟な働き方ができる場になっていました。そのため、コロナ禍においても職員同士のソーシャルディスタンス確保や職場内における密の回避に有効だったのです。職員の方からも、「職員の分散勤務の場としての活用や、利用が増大したWeb会議を実施する場としても大いに活用できた」と、好評です。
※ABW:Activity Based Workingの略。その時々の業務にもっとも適した場所に移動して働くワークスタイルのこと
オフィス改革や窓口改善から、採り入れることも可能
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
フェーズフリーのオフィスには、ABWの発想が重要です。当社では、実際に使用している全国の自社オフィスを「ライブオフィス」として公開。ABWを踏まえたアフターコロナの働き方を、社員自ら実践しており、先進事例として見学していただけます。
また、フェーズフリーは最初から全面的・全庁的に取り組む必要はありません。オフィス改革や窓口改善など、一部の改修に採り入れて始めることも可能です。そうやって小さく始め、職員の方に働きやすさを実感してもらうことで、フェーズフリーの官公庁オフィスを全国的に広めていきたいですね。
八上 俊宏 (やかみ としひろ) プロフィール
昭和40年、大阪府生まれ。平成元年、コクヨ株式会社に入社。民間企業のオフィス環境整備に携わった後、ファシリティマネジメントの手法を活用して自治体における庁舎の統合移転コンサルティングを手がけたことを契機に、官公庁のオフィス環境整備におけるコンサルティング業務を担っている。
コクヨ株式会社