※下記は自治体通信 Vol.60(2024年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体では日々、行政手続きなどについて住民から数多くの問い合わせが寄せられている。そこへいかに対応するかは、住民サービス向上の観点で重要な課題だ。この課題について、各種BPOサービスを手がけるアルティウスリンクの吉野氏は、「近年、問い合わせ対応にAIチャットボットの導入を検討する自治体が増えている」と指摘する。AIチャットボットの活用が住民サービスの向上につながるのはなぜなのか。同氏に詳しく聞いた。
アルティウスリンク株式会社
法⼈ビジネス統括本部 ソリューション第2本部 第1営業部 第1ユニット
吉野 浩平よしの こうへい
昭和51年、東京都生まれ。平成21年にBPO会社に入社し、運用管理や営業を経験。令和元年、アルティウスリンク株式会社に入社。同年より現職。おもに自治体・官公庁向け営業を担う。
繁忙期のコールセンターは「応答率」が低下することも
―住民からの問い合わせ対応をめぐり、自治体はどのようにサービス向上を図っていますか。
コールセンターの運営などBPOサービスを活用する自治体は非常に多いです。職員の数に限りがあるなかでも、自治体は住民から数多く寄せられる多様な問い合わせに漏れなく応対し、住民の疑問を解消することが求められています。そのため、専任のオペレーターが住民からの問い合わせに丁寧に応対するコールセンターの運営は長年、サービス向上に向けた最善策の1つとされています。しかし最近は、このコールセンターの運営を補完する手段として、AIチャットボットの活用も検討する自治体が増えてきました。その背景には、「住民サービスのさらなる向上」という観点による、2つの課題があります。
―どのような課題ですか。
1つ目は、「平日昼間に仕事がある住民は、問い合わせしづらい」という課題です。オペレーターが常駐するインハウス型のコールセンターは、対応時間が開庁時間と同じになるのが一般的なため、住民がいつでも問い合わせできるようにしたいと考える自治体は多いです。2つ目は、入電に対してオペレーターが応答できる割合、いわゆる「応答率」に関する課題です。コールセンターの応答率は90%以上が理想とされますが、問い合わせが集中する期間は70~80%程度に低下してしまう業務もあります。これらの事情から、AIチャットボットの導入を検討する自治体が増えているのです。
ただし、AIチャットボットの効果を最大限に発揮するには、どのようなソリューションを選ぶかが重要になります。
AIの学習専門チームが、回答精度の向上を追求
―ソリューション選定のポイントを教えてください。
やはり、回答精度の高いAIチャットボットを選ぶことが重要です。回答精度を示す指標はいくつかありますが、たとえば当社がある企業の問い合わせ対応を支援した際、チャットボットに対する満足度を測る「自己解決率*」は73%にのぼり、業界水準をもとに設定した目標の60%を10ポイント以上、上回ったという実績があります。その企業では、この実績によりメールの問い合わせを70%以上減らせたという成果も生まれました。
このように、利用者が満足できる問い合わせ対応を実現するために当社では、AIに学習させる専門のチューニングチームを構築し、チャットボットの開発時・納品後を問わず、回答精度の向上を追求できる体制を整えています。また、AIに学習させるに当たって当社には、コールセンター運営の専門家としての強みもあります。
―それはどのようなものですか。
「顧客の疑問を解消させる」ための知見が豊富なことです。AIチャットボットの回答精度を高めるには、ただFAQを数多く用意するだけでは十分ではありません。「ユーザーによる質問のパターン」や「質問への適切な切り返し」など、コミュニケーションに関するノウハウもAIにしっかりと学ばせることが重要です。コールセンター事業の売上規模で国内トップクラスの当社には、こうした「顧客の問いから最適解を導くための知見」が蓄積されているため、それをAIチャットボットの作り込みに活かせるのです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
繁忙期の問い合わせが多い「税金」関連のほか、定期的な更新・状況確認が必要な「子育て」、「国保」、「年金」など、さまざまな領域の業務にAIチャットボットの活用を提案していきます。チャットボットは、住民だけでなく、庁内の職員による問い合わせ対応にも活用できます。ぜひ気軽にお問い合わせください。
*自己解決率: チャットボットが回答とともに表示するアンケート「回答はお役に立ちましたか」に「はい」と回答された割合
「自己解決率70%」の成果。住民サービス向上に確かな手応え
[埼玉県] ■人口:733万1,705人(令和6年7月1日現在) ■世帯数:331万4,446世帯(令和6年7月1日現在) ■予算規模:3兆5,545億2,912万4,000円(令和6年度当初) ■面積:3,797.75km²
導入背景
アルティウスリンクによると、埼玉県では長年、BPO事業者にコールセンターの運営を委託し、自動車税に関する住民からの問い合わせに対応してきた。しかし、自動車税の納付時期と重なる5月は例年、問い合わせの急増によって「応答率」が低下する傾向があり、職員はそれを課題と捉えていたそうだ。そうした折、令和6年1月以降の委託事業者を公募した際に、アルティウスリンクからAIチャットボットの導入に関する提案を受けた。応答率の改善を含む住民サービスの質向上に期待し、導入を決定。同年4月から、県HPにおける自動車税に関する特設サイト内などに、同税に関する専用のAIチャットボットを開設した。
導入効果
繁忙期となる5月に、AIチャットボットとの対話が発生した「有効リクエスト数」は約4万9,000件と、例年の同時期におけるコールセンターへの問い合わせ件数よりも多くなった。アルティウスリンクは、「24時間365日、問い合わせを受け付け可能なことが、多くの利用につながった」と分析している。住民がチャットボットを通じて問題を自ら解決できた割合「自己解決率」は、約70%だった。この数値は「金融機関などの一般的なチャットボットの自己解決率である約30%と比べ、高い水準」(アルティウスリンクの担当者)だそうだ。埼玉県はAIチャットボットのほか、SMSによる自動送信の仕組みも、繁忙期である5~6月に限定して導入。架電が電話回線数を上回る「あふれ呼」が生じた際、SMSでAIチャットボットを案内するといった活用で、住民サービス向上への確かな手応えを得ているという。