※下記は自治体通信 Vol.62(2024年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いま、多くの自治体が窓口業務のデジタル化を推進し、住民サービスの向上に努めている。しかしその過程において、職員の業務が一時的に煩雑になるといった「過渡期」ならではの課題が生じているケースも少なくない。こうした状況について、BPOサービスを提供するアルティウスリンクの大野氏は、「住民サービスの質を維持しつつ、窓口業務のさらなるデジタル化を進めるには、外部委託の活用が有効な選択肢になる」と指摘する。指摘の詳細を同氏に聞いた。
アルティウスリンク株式会社
法人ビジネス統括本部 CX第2本部 ビジネスソリューション2部 第2ユニット 統括マネージャー
大野 真吾おおの しんご
昭和56年、大阪府生まれ。平成21年に株式会社もしもしホットライン(現:アルティウスリンク株式会社)に入社。15年にわたり、数多くの自治体・官公庁や公共関連のコールセンター・事務・窓口業務の構築および管理運営を担う。
アナログな作業が残り、業務逼迫につながることも
―窓口業務のデジタル化をめぐる、自治体の課題はなんですか。
1つは、職員がデジタル化による恩恵をまだ十分に享受できておらず、一時的な業務負担の増大が生じていることです。デジタル化を取り入れた業務であっても、運用面ではアナログな作業が残り、職員の業務負担軽減につながっていないケースは少なくありません。たとえば、システムとデータの連携が不十分であるがゆえ、紙を印刷したり、データを手入力したりする作業が新たに発生しているといった話はよく耳にします。こうしたデジタル化の「過渡期」に生じる課題は、リアルの窓口業務にも影響を及ぼしかねません。
―どういうことでしょう。
デジタル化された業務と元来の窓口業務を並行して進めるなかでは、業務がひとたび逼迫することで窓口に混雑が生じてしまう可能性もあるのです。それがもう1つの課題です。多くの自治体は、住民サービスの向上を目的に、デジタル化を通じて「行かない」「書かない」「待たない」窓口の実現に取り組んでいます。実際に、住民は役所に足を運んだり申請書に手書きしたりせずとも、各種証明書の交付を簡単に受けられるようになりました。しかし同時に、このデジタル化の過渡期においては、住民サービスの低下を招きかねない状況が生じているのも事実なのです。
―よい解決策はありますか。
BPOサービスの活用が、1つの有効な解決策となりえます。たとえば当社では、受付やデータ入力、手数料の徴収・収納、フロア案内などの窓口業務を幅広く請け負うことができるため、デジタル化の進展度や、窓口業務の逼迫度合い、来庁者の特性など、各自治体で異なる状況や課題に合った支援を提供することができます。当社では、自治体の業務知識や事務を効率化するためのノウハウを蓄積することを目的に、スタッフの定着に力を入れており、大阪エリアを例にあげると、約7割が5年超の継続勤務者です。加えて、多くのスタッフが無期雇用で働いています。そのなかで専門性や対応力を高めたスタッフが、「自治体の顔」とも言えるリアルの窓口において、サービスの質を落とすことなく、即戦力として業務を請け負うことができるのです。
マルチスキルのスタッフが、待たせない窓口づくりを支援
―具体的に、どういった支援が可能なのですか。
たとえば、フロア案内を含む窓口業務全般を丸ごと請け負うことが可能です。当社では、受付や交付、手数料の徴収といった複数の職務に必要な知識やノウハウをスタッフが習得できるようサポートし、「マルチスキル化」を図っています。そのため、手の空いている人員を混雑している別の窓口に融通したり、臨時窓口を開設したりといった臨機応変な対応で、住民を待たせない窓口づくりを支援できます。自治体業務に関する専門的な知見とBPOサービスで培ってきたノウハウを活かし、デジタル化の過渡期にある業務プロセスの改善に貢献することも可能です。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
現場の視点と、将来のデジタル化移行を見据えた視点の両面から、職員の業務負担軽減と住民サービスの向上をお手伝いしていきます。たとえば、自治体のDX推進を後押しするため、住民のデジタル利用を促すといった支援も行えます。実際に大阪市内の各区役所では、フロアマネージャーがマルチメディア端末を使ってデモを実施し、マイナンバーカードやデジタルツールの利用に対する住民の不安を和らげつつ、デジタル化の利便性を実感してもらう取り組みを行っています。デジタル化の過渡期において業務課題を感じている自治体のみなさんは、気軽にご連絡ください。
地域特性に合った窓口運営が、来庁者の満足度を高めている
[大阪市浪速区] ■人口:8万4,573人(令和6年10月1日現在) ■世帯数:6万2,618世帯(令和6年10月1日現在) ■予算規模:3億8,511万2,000円(令和6年度当初、区長自由経費) ■面積:4.39km²
【導入背景】
浪速区は外国人住民の数が大阪市内で3番目に多く、区役所近辺には複数の日本語学校が立ち並ぶ。アルティウスリンクによると、普段、
来庁者の半数ほどは外国人住民が占めるといい、窓口業務には、中国語やベトナム語など
多言語での対応が求められるほかにも、
特有の課題が多いそうだ。たとえば、日本語学校の入学シーズンは、住民登録を行う外国人が
数十人規模で一度に窓口を訪れるため、
業務の逼迫が起こりやすい。また、戸籍制度の有無や、身分証明書の種類が国によって異なるため、
事務手続き上の判断も複雑になる。こうした状況のなかでも住民サービスの質の安定を図るため、同区はかねてより「住民情報業務等窓口」を民間に委託。平成30年からはアルティウスリンクが6年間にわたって受託している。
【導入効果】
年間を通じて
安定した窓口運営を実現できているという。アルティウスリンクによると、同社は人材を定着させる取り組みにより、大阪エリアでは
5年以上継続勤務しているスタッフが全体の7割を占める。そのため浪速区では、自治体業務に精通したスタッフによる支援はもとより、外国人住民が多いという
地域特性に合った支援が、安定した窓口運営につながっているという。具体的には、同社は
外国語を話せるスタッフ陣を常時、配置しているほか、繁忙期には日本語学校の生徒向けに専用の臨時窓口や順路を用意。
ほかの来庁者の窓口対応が滞ることのないよう工夫を行っている。アルティウスリンクが3ヵ月に1回実施している来庁者の満足度調査では、
「満足」の比率が「90%以上」と高水準が続いているという。