※下記は自治体通信 Vol.63(2025年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口減少や少子高齢化、気候変動による災害の激甚化など地方が抱える社会課題を、「まちづくり」を通じて解決する。こうした理念を掲げ、各地で公民連携によるまちづくりを推進するプライム ライフ テクノロジーズ(PLT)が、令和6年10月22日、新たなグループブランドの発表会を行った。そこでは、公民連携によるまちづくりによって地域の魅力や活力を高める取り組み事例が紹介された。さらに、発表会後半の有識者座談会では、社会課題の一例として医療課題に焦点を当て、まちづくりの視点から解決を図る新しい取り組み事例が共有された。
病院再編や遊休地活用から、経済循環を創る「未来のまち」
同社は、パナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社を傘下に持つホールディングス会社。「くらしとテクノロジーの融合」によるまちづくりを目指して令和2年1月にパナソニック(現:パナソニック ホールディングス)とトヨタ自動車によって設立され、現在は三井物産を加えた3社が株主となっている。
この日の発表会では、「未来をまちづくるPLT」という新たなグループブランドとともに、その理念を具現化した複数のフラッグシップ物件が紹介された。老朽化病院を統合した複合拠点を開発し、医療を軸とした新たな地域コミュニティを形成した神戸市(兵庫県)の事例、さらには遊休耕作地の再開発事業において地域主体のスマートシティを実現し、地域内で経済循環を創出した伊達市(福島県)の事例などが紹介された。いずれのケースも、自治体や地元企業・団体を中心とする地域社会との公民連携体制により、社会課題の解決に貢献する、まちづくりの先進事例と位置づけられている。
発表会で同社代表取締役社長の北野亮氏は、「開発が成功につながる条件は、首長をはじめ自治体自身がプロジェクトに深く関与すること。地域のステークホルダーが主体となった、地域発の取り組みを我々はお手伝いしていきたい」と宣言。社会課題解決に取り組む各自治体に対して「協働」によるまちづくりを呼びかけ、グループを挙げて地域支援に取り組む姿勢をアピールした。
まちづくりの基軸に医療課題を据え、住民のウェルビーイング向上を
発表会の後半には、プライム ライフ テクノロジーズがおもに取り組む「これからの地域ヘルスケアの在り方とまちづくり」をテーマに、医療分野の有識者三者による座談会が開かれた。今回の座談会では、地域の病院経営、在宅医療など、さまざまな医療課題に対する専門性の高い知見が披露されるとともに、身体だけでなく、精神的、社会的にも満たされるウェルビーイングを実現するまちづくりとはどうあるべきか、議論が交わされた。
新しい取り組みでは、民間や現場のノウハウ活用を
座談会に参加したのは、東京大学高齢社会総合研究機構機構長の飯島勝矢氏、国際医療福祉大学大学院副大学院長の福井トシ子氏、医療法人社団しろひげファミリー しろひげ在宅診療所院長の山中光茂氏の三氏。医療が抱える社会課題の解決型まちづくりに向けて、冒頭各氏からそれぞれの専門分野における現状の課題を指摘した。「フレイル」という語を世に広めたという飯島氏からは、高齢者医療の観点から「健康寿命・幸福寿命の延伸に向けては、高齢者の自助・互助が基本。それを引き出す動機づけとしての健康福祉政策と、受け皿となる産学官協働のまちづくり政策と戦略的コラボが重要になる」との指摘があった。また、日本看護協会の前会長でもある福井氏からは、地域医療の観点から、「健康な時からの疾病予防への介入が不十分。地域に出て住民に寄り添う看護職も圧倒的に足りない。医療と生活の両面から支援できる看護職を地域全体で活用促進する工夫が必要」との問題提起がなされた。さらに、日本最大規模の在宅診療所を率い、前松阪市長でもある山中氏からは、在宅医療の観点から「地域包括ケアの概念が地域にはまだ十分定着しておらず、在宅看取り率は上がっていない。在宅医療の現場では、自治体と民間企業、医療機関の連携はブルーオーシャン」との現状を指摘した。
こうした現状を受けて、座談会後半では、ウェルビーイングを実現するまちづくりに求められることとは何かに議論が及んだ。飯島氏からは、「介護予防事業では、住民同士の交流を通じて気づき合う体制と場をつくることが重要。そのために、まちづくり分野における行政と企業と医療による連携が求められる」と訴えた。福井氏は、「重要なのは、住民における医療へのアクセスをいかに確保するか。保健相談とお寺、神社、郵便局が連携した事例もある。医療へのアクセスの良さをつくりだし、地域住民に医療機能を届ける仕組みの構築が、これからのまちづくりには求められる」と指摘した。山中氏は、自身の行政経験をもとに、「行政も民間との連携を求めている。行政単独ではできない新しい取り組みにおいては、民間や現場のノウハウを取り込む、いわば『明るい癒着』に基づいたまちづくりが広がらなければならない」と指摘し、その紐帯役としてプライム ライフ テクノロジーズへの期待が語られた。