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先進事例2021.04.01

行政の「新たな方法論」として、公民連携を定着させたい

行政の「新たな方法論」として、公民連携を定着させたい

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第2回

行政の「新たな方法論」として、公民連携を定着させたい

東大阪市長 野田 義和
東大阪市 公民連携協働室 室長  岩﨑 貴宏

※下記は自治体通信 Vol.29(2021年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府が促進している公民連携。その旗振り役として、府では一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。同デスクは現在、府内の自治体にノウハウを積極的に展開しており、専門部署を設けて公民連携を強化する動きが、府内の市町村にも広がっている。そこで今回からは、各自治体への取材を通じて、専門部署を立ち上げた背景やその成果などをお伝えする。その第一弾は東大阪市。市長の野田氏に話を聞いた。

東大阪市データ
人口:49万819人(令和3年3月1日現在) / 世帯数:23万2,260世帯(令和3年3月1日現在) / 予算規模:3,687億4,995万7,000円(令和2年度当初) / 面積:61.78km² / 概要:河内平野のほぼ中央部に位置し、西は大阪市、南は八尾市、北は大東市、東は生駒山地で奈良県と境を接している。昭和42年2月に布施・河内・枚岡の3市が合併して誕生し、平成17年には中核市へ移行。市内には、日本初のラグビー専用グランド「東大阪市花園ラグビー場」や、大阪樟蔭女子大学、大阪商業大学、近畿大学、東大阪大学の4つの大学が位置し、また日本でも有数のモノづくり企業の集積地としても知られている。
東大阪市長
野田 義和のだ よしかず

「動ける組織」を立ち上げ、市長直轄で公民連携を推進

―東大阪市が公民連携を促進している背景を教えてください。

 当市の公民連携は、平成27年の大学との包括連携協定を皮切りに、民間企業との連携を進め、さまざまな社会課題にあたってきました。そうしたなか、2年前に開催された「ラグビーワールドカップ2019™日本大会」は、公民連携の効果を改めて実感するひとつの契機になりました。会場となった当市においては、多くの民間企業・組織との連携が大会を成功に導く原動力になったと感じています。

―昨年4月には、「公民連携協働室」を新設しました。

 従来は企画室が業務の一部として公民連携の窓口を務めていましたが、正面からしっかり対峙できる組織をつくらなければ、民間企業のスピード感についていけません。同時に、迅速な意思決定を下せる「動ける組織」でなければならない。市長直轄組織としたのも、そのためです。

 発足にあたっては、大阪府公民戦略連携デスクからは、公民連携ノウハウの共有や連携事業者の紹介など、多くの支援をいただきました。

―「公民連携協働室」には、どのような期待をしていますか。

 組織の活性化を促す触媒になることを期待しています。私は就任以来、職員には「井の中の蛙になってはいけない」と伝え続けてきました。外部との広い交流を通じて行政サービスを磨いていこうと。公民連携はそうした機会になりえますし、成功事例を積み重ねていければ、行政サービスの価値を高める「新たな方法論」という認識が定着していくかもしれません。職員のなかにある行政の固定観念を、ぜひ覆してもらいたいのです。

―今後の市政ビジョンを聞かせてください。

 当市では令和3年度に10ヵ年の第3次総合計画がスタートしますが、そこで掲げられているスローガンが、「つくる・つながる・ひびきあう‒ 感動創造都市 東大阪‒」。これはまさに公民連携のイメージそのものと言えます。市政ビジョンと重なる価値観を体現する公民連携には、大きな可能性を感じています。


地域の商店街をモデル地区に、買い物支援の実証実験を開始

昨年4月に、公民連携の専門部署として発足した東大阪市「公民連携協働室」。「動ける組織」を目指し、市長直轄組織として活動を開始してから、1年が経過した。この間、現場では実際にどのような取り組みを進め、成果をあげているのか。同室長の岩﨑氏に詳しく聞いた。

東大阪市
公民連携協働室 室長
岩﨑 貴宏いわさき たかひろ

コロナ禍の住民と商店街を、公民連携を通じて支援

―「公民連携協働室」のこれまでの活動状況を教えてください。

 組織は室長の私のほか、4人の職員の計5人体制で活動しています。各所管課と民間企業との橋渡しが我々の役割ですが、企業によっては詳細な連携プランを持参している場合もあれば、連携内容の具体化から対話を重ねるケースもあります。当市では対等なパートナーとして企業と信頼関係を築きたいと考えており、対話による相互理解を重視し、協議を進めています。令和2年度、当室では6社と包括連携協定を、2社とパートナーシップ協定を締結。このなかには、公民連携の専門部署が発足したことを知り、直接問い合わせをくれた企業もあり、専門部署設置の意義を実感しています。ただし、本当に重要なのは協定締結後。どのような取り組みをしていくかですから、企業との綿密な情報交換はとても大切にしています。

―民間企業とは、具体的にどのような取り組みをしていますか。

 現在進めている取り組みのひとつに、CBcloudの『PickGO』という、買った物を指定場所までお届けするサービスがあります。同社との連携は、大阪府公民戦略連携デスクからの紹介がきっかけでした。約50万人の人口を抱える当市ですが、東部の山間部には交通の便が悪い地域があります。また、市内には多くの高齢者や障害者のほか、家族の介護などで買い物や移動に不便を抱えている住民もいます。また、市内の商店街はコロナ禍で深刻な売上減少に直面していることから、関係部局(都市魅力産業スポーツ部)と協議し、市としてCBcloudのサービスが活かせると判断しました。

―成果はいかがですか。

 現在は、都市魅力産業スポーツ部が中心となり、まずは「瓢箪山商店街」を最初のモデル地区とし、昨年12月から実証実験を始めています。また、商店街側には説明会を通じてアプリへの登録を案内していますが、今後は住民へもサービスを広く周知していきます。この取り組みは、順次市内のほかの商店街や個店にも対象を広げていき、生活に根差した住民サービスの向上と地域の活性化につなげていきたいと考えています。


支援企業の視点

寄り添ってサポートしてもらえる、専門部署は大変心強い存在です

CBcloud株式会社 執行役員 佐川 大介

CBcloud株式会社
執行役員
佐川 大介さがわ だいすけ

―東大阪市との取り組みに、どのような期待をしていますか。

 『PickGO』は、従来の通販とは違い、申し込みから最短30分程度で商品が届くという「買い物サービス」ですが、まだ日本では広く浸透していません。そのため、東大阪市との取り組みが、サービスを定着させていくひとつのきっかけになると期待しています。人口が約50万人の東大阪市には、大きな都市部がある一方、東部には生駒山の山間部の住宅もあるなど、さまざまな顔をもった地域です。当社のサービスが、多様な属性の住民に役立つことを示せる良い機会と考えています。

 また、交通の便が悪い地域では、登録ドライバーのリソースを住民の移動支援にも活かせる可能性があります。それには規制緩和が必要ですが、そうした新しい価値の創出も公民連携への期待のひとつにあります。

―「公民連携協働室」の活動をどう評価していますか。

 当社にとって、自治体との連携は初めての経験になりますが、そのスピード感に驚いています。包括連携協定の締結に先立って市長と直接話し合う機会をいただき、その後も我々がやりたいことと、東大阪市が解決したい課題を綿密にすり合わせて実証プログラムを迅速に設計できました。また、商店街への案内に際しては、理事会への紹介や説明会の段取りなど寄り添ってサポートいただけるため、大変心強いです。商店街の店舗には、アプリ操作に抵抗のある経営者もおられるため、自治体がもつ人脈にはとても助けられています。

佐川 大介 (さがわ だいすけ) プロフィール
神奈川県横浜市出身。大学卒業後、ベンチャーキャピタル、独立系会計コンサルティングファームを経て、Google合同会社に入社。マーケティング本部のマネージャー時代に立ち上げたベンチャー支援プロジェクトで1年間携わったCBcloud株式会社に、令和2年1月に執行役員として入社。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

公民連携を望む企業が多い東大阪市で、専門部署が発足した意義は大きい

 「公民連携協働室」の発足にあたっては、庁内での一元的な窓口・相談機能の必要性やその効果を伝え、サポートしてきました。CBcloudとの取り組みは、日頃からの当デスクと東大阪市とのスピーディな情報共有といった両者の連携により実現した公民連携の一例です。今後も東大阪市の地域課題解決につながる公民連携事例が多く実現されるよう、支援していきたいと考えています。

 東大阪市は、世界に誇れる中小企業が集積する「モノづくりのまち」です。社会課題の解決にあたり、これらの貴重なリソースを活かせる東大阪市と連携・協働を望む企業は多いでしょう。「公民連携協働室」の存在意義は、ますます高まっていくはずです。

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