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先進事例2022.09.16
連載「大阪発 公民連携のつくり方」第15回

行政・市民・企業がともに利益を得る、マルチパートナーシップという発想

行政・市民・企業がともに利益を得る、マルチパートナーシップという発想

大阪府公民戦略連携デスク

連載「大阪発 公民連携のつくり方」第15回

行政・市民・企業がともに利益を得る、マルチパートナーシップという発想

大阪狭山市長 古川 照人

※下記は自治体通信 Vol.42(2022年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


複雑化、多様化する社会課題の解決を掲げ、大阪府では公民連携の促進を目的に、一元的な窓口機能「公民戦略連携デスク」を設置している。このような専門部署を設けて公民連携を強化する動きは、府内の各自治体にも広がっている。連載第15回目となる今回は、令和3年4月に公民連携の専門窓口として「公民連携・協働推進グループ」を設置した大阪狭山市を取材。公民連携に対する考え方や取り組みの成果などについて、市長の古川氏と同市担当者に話を聞いた。

[大阪狭山市] ■人口:5万8,322人(令和4年7月31日現在) ■世帯数:2万6,242世帯(令和4年7月31日現在) ■予算規模:371億9,620万9,000円(令和4年度当初) ■面積:11.92km2 ■概要:大阪平野の東南部に位置し、北東部の平地部と南西部の丘陵部からなる。まちの中心に位置する狭山池は、日本最古のため池とされる。 100年以上生産が続く市の特産品の1つ「大野ぶどう」は、糖度が高く、渋みも少ないことで有名。品評会でも数多くの受賞歴がある。
大阪狭山市長
古川 照人 ふるかわ てるひと

次のまちづくりの担い手を、いかに発掘・育成していくか

―公民連携の窓口となる専門部署を設置した経緯を教えてください。

 規模の小さな自治体ゆえに、顔の見える関係を築きやすいという事情もあり、当市には以前から市政への市民参画や市民協働が盛んな土壌がありました。また、地区会や自治会が中心となった防犯・防災活動なども活発でした。

 一方で、近年はそうした参加者たちの高齢化に伴い、次のまちづくりの担い手をどのように発掘・育成していくかが課題となっていました。そうしたなか、近年はSDGsやESG*1投資といった考え方が浸透し、企業にとっても公民連携がメリットになることがわかってきました。行政と市民との関係性のなかに、企業という第3の主体がくわわることで、市民協働を深化させ、持続可能性も高められる。そのような期待から、令和3年4月、政策推進部内に「公民連携・協働推進グループ」を設置したのです。

―専門部署の設置によって、どのような成果があがっていますか。

 これまでに20以上の企業や大学と接点を持ち、令和3年度中に包括連携協定を6件、個別連携協定を1件締結しました。これらの連携で、我々は「マルチパートナーシップ」という考え方を大切にしています。市と市民、市と企業が連携するだけでなく、市民と企業、企業同士など多様な主体の連携を進めることを目指しています。この姿勢こそが、公民連携の成果をまちづくりに深く浸透させ、さらには取り組み自体の自律的発展に向けた道筋をつくると考えています。こうした公民連携が市政の原動力になるという意識は、いまや職員間の共通認識になっています。先日、庁内で今後の公民連携テーマを募ったところ、各部署から想定を超える40もの提案があがりました。これもうれしい成果です。

―今後に向けて、どのような市政ビジョンを描いていますか。

 当市は、令和3年3月に第五次総合計画を策定しました。その合言葉は「みんなでつくる おおさかさやま」で、まさにマルチパートナーシップの精神を謳ったものです。この精神に則り、公民連携を通じて、多様な主体の特性を活かしたまちづくりを進めていきます。


マルチパートナーシップの精神が、体現されたキッチンカー事業

大阪狭山市 政策推進部 公民連携・協働推進グループ 課長  東野 貞信

発足後、すでに6件の包括連携協定を結ぶ大阪狭山市の「公民連携・協働推進グループ」。その成果のひとつに、南海電気鉄道との取り組みがある。同市が公民連携の理念に掲げる「マルチパートナーシップ」の考え方は、ここでも体現されているようだ。同グループを率いる課長の東野氏に、取り組みの詳細などについて聞いた。

大阪狭山市
政策推進部 公民連携・協働推進グループ 課長
東野 貞信 ひがしの さだのぶ

成功例を見た市民から要望「自分たちも呼びたい」

―南海電気鉄道と包括連携協定を結んだ経緯を教えてください。

 南海高野線が当市と大阪中心部を結ぶ唯一の路線であり、当市のシンボル的存在だった「さやま遊園」の運営や、狭山ニュータウン開発などを通じ、南海電気鉄道はまちづくりの重要なパートナーでありました。コロナ禍において、新たな生活様式の下でのにぎわい創出が課題となるなか、当市ではその方策の1つとして南海電気鉄道のグループ会社の力を借り、令和2年度から市内でキッチンカーの出店を社会実験として行いました。この取り組みもきっかけの1つとなり、同社と包括連携協定を結びました。キッチンカーの取り組みでは、マルチパートナーシップの精神から、市民団体とキッチンカーの事業者とをつなげ、市民が企画する各種イベントにも出店を広げています。その代表例が、市内最大のイベント「狭山池まつり」での出店でした。

―成果はいかがでしたか。

 3年ぶりに開催ができたものの、コロナ禍の影響で市民主催の模擬店の出店は取りやめとなったなか、キッチンカーがその穴をみごとに埋めてくれました。一日中、長蛇の列ができる人気のキッチンカーもあり、例年約4万人の参加者を集めるかつてのイベントのにぎわいを取り戻した印象でした。

 こうした大きなイベントだけではなく、自治会などからも、「自分たちの地域にもキッチンカーを呼びたい」との要望があり、市が仲介役を務め、南海電気鉄道と市民とが直接交渉を進めながら、複数の地域でキッチンカーが出店する話が進んでいます。まさに、当市が目指すマルチパートナーシップの公民連携が体現された成果だったと実感しています。

―今後の方針を聞かせてください。

 現在、複数の包括連携協定が動き出しています。それらの事業でも、今回の成功事例のように、公民連携事業を企業1社との取り組みで終わらせることなく、当市が培ってきた市民協働の基盤を活かした発展を目指します。それこそが、市民との間で、顔の見える関係性を築いてきた当市ならではの公民連携のあり方だと考えています。


支援企業の視点

「危機感を共有」できるパートナー。緊密な連携で協定を深化させたい

南海電気鉄道株式会社 まち共創本部 企画部 山田 貴之
南海電気鉄道株式会社
まち共創本部 企画部
山田 貴之 やまだ たかゆき

―大阪狭山市との取り組みに、どのような意義を感じますか。

 これまで当社は沿線各自治体と深い関係を持ちながらも、広義の「まちづくり」を手がけた事例は多くありません。まちづくりと言えばどうしてもハード面の整備に目を向けがちです。しかし、これからの時代は住民のみなさまに喜んでもらえるサービスといったソフト面を充実させ、関係人口増加につなげてこそ、真のまちづくりと言えるのではないでしょうか。

 当社にとって自治体との包括連携協定の締結は、大阪狭山市が初めてです。沿線・市域における人口減少・高齢化といった「危機感を共有」し、手を携えてさまざまな社会課題の解決に取り組んでいくつもりです。最初に取り組んだキッチンカー事業を、実証実験レベルを超えて本格展開にまでこぎつけられた経験は、大きな成果だったと考えています。

―公民連携専門窓口の役割を、どのように評価していますか。

 大阪狭山市においては包括連携協定のもと、キッチンカー事業のほかに、「傘の貸し出しサービス」や「親子での体験イベント」など、複数の事業を展開しています。庁内の複数の部署と調整が必要でしたが、そのたびに公民連携・協働推進グループが橋渡し役となり、スピード感をもって事業を推進してくれました。窓口が明確化されているため、我々も市に情報を提供しやすく、それが緊密な連携がとれている要因だとも感じています。今後新しい施策を立ち上げ、連携協定を深化させるにあたっても不安はありません。

山田 貴之 (やまだ たかゆき) プロフィール
昭和47年、大阪府生まれ。平成7年、南海電気鉄道株式会社へ入社。おもに不動産開発、沿線まちづくりなどの業務を担当する。令和4年から現職。

大阪府公民戦略連携デスクの視点

課題解決の新しい手法「マルチパートナーシップ」に期待

 大阪狭山市は、長年にわたり市民と行政が一緒に行政課題を解決するために、「市民協働」の取り組みを進めてきました。しかし、市民の高齢化などに伴い、次世代に対応したまちづくりや課題解決の手法が求められています。そこで、市民と行政にくわえて、民間企業・大学など、多様な主体が連携・協働する「マルチパートナーシップ」を掲げ、その窓口である「公民連携・協働推進グループ」が取り組みを深化・発展させようとしています。

 窓口設置後の南海電気鉄道との取り組みは、そうした成果のひとつでしょう。「マルチパートナーシップ」の手法は、「大阪狭山市モデル」になっていくものと期待しています。

*1:※ ESG : 環境、社会、ガバナンスを表す英語の頭文字を取ったもの。企業へ投資する際の1つの指標として活用される

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