※下記は自治体通信 Vol.48(2023年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
IoTを活用したスマート農業に取り組む自治体が増えている。効率的な収穫量の増加や、熟練者に限られた技術の平準化など、持続可能な農業の運営体制構築が求められているからだ。そうしたなか、舞鶴市(京都府)では、同市発祥であり「京のブランド産品」に認定されている「万願寺甘とう」の栽培にスマート農業を導入し、有益なデータ結果を得たという。同市担当の吉田氏に、導入の背景やデータ結果の詳細を聞いた。
[舞鶴市] ■人口:7万7,726人(令和5年2月1日現在) ■世帯数:3万4,549世帯(令和5年2月1日現在) ■予算規模:661億1,935万円(令和4年度当初) ■面積:342.13km2 ■概要:本州のほぼ中央部、日本海がもっとも湾入した京都府北東部に位置している。「ITを活用した 心が通う 便利で心豊かな田舎暮らし」 の実現を目指し、企業や教育機関などと連携してまちづくりに先進技術を積極的に活用する取り組みは、令和元年に内閣府の「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に選定された。ブランド京野菜「万願寺甘とう」は、大正末期に舞鶴市万願寺地区で栽培されたのが始まりとされている。
舞鶴市
産業振興部 産業創造室 農林水産振興課 農業振興係長
吉田 彰博よしだ あきひろ
栽培管理が難しく、収穫量の差が大きかった
―舞鶴市がスマート農業に取り組んでいる背景を教えてください。
地域全体における「万願寺甘とう」の収穫量を底上げするためです。当市の伝統野菜である万願寺甘とうは栽培管理が難しく、生産者によって収穫量の差が大きいという課題がありました。万願寺甘とうは共選・共販方式*1で市場に出荷されており、価格の安定や市場の需要に応えるためには、出荷数量を全体で安定的に増やす必要があったのです。そこで、平成30年に地域活性化を目的とした連携に関する協定を結んでいたKDDIと当市、さらに、当市の生産者で構成された「京都丹の国農業協同組合舞鶴万願寺甘とう部会」および京都府が協力し、スマート農業を進めていくことにしたのです。
―どのように取り組みを進めていったのですか。
令和元年の11月頃に関係団体が集まって話し合った結果、「高収量生産者の栽培環境を見える化して有効活用できないか」という話になりました。そこで、当市の高収量生産者5人の協力を得て、各圃場にIoTセンサーを設置。温湿度や日照、地温などのデータを収集し、クラウド上でグラフ化して共有・分析を行う実証実験を令和2年3月から開始したのです。その後、定期的にWeb会議を実施し、関係団体で分析や議論を重ねていきました。令和3年には、綾部市や福知山市の高収量生産者3人を京都府によって新たに追加。また、一定基準に達すると病害が発生する可能性が高まることから、平成4年にはアラート機能を実装する、といった改善を少しずつ重ねていったのです。
得られたデータを、横展開していく予定
―取り組みの成果は出ましたか。
気温が日平均23~27℃、地温が日平均22~26℃、日照が日積算10.6MJ/m2*2以上という条件下であれば、生育が良かったとのデータ結果が出ました。生産者からは「なんとなく肌で感じていた良い栽培条件が、数値化された」などの声が聞かれましたね。
―今後におけるスマート農業の取り組み方針を教えてください。
データを横展開し、万願寺甘とう栽培のお手本として活用する予定です。一軒の生産者が取り組むIoTは限定的ですが、産地全体でスマート農業を活用し、関係団体が連携したこの取り組みは、アナログも活用した最先端の取り組みだと自負しています。KDDIにはIoTの提供やデータの分析はもちろん、事前に綿密なヒアリングをしてもらい、全体のまとめ役としても貢献してもらいました。今後もスマート農業を改善しつつ、当市が掲げる「ITを活用した 心が通う 便利で心豊かな田舎暮らし」を目指していきます。
スマート農業はあくまで手段。膝を突き合わせたヒアリングが重要
齋藤 匠さいとう たくみ
昭和51年、茨城県生まれ。平成13年に日本大学大学院を修了後、東京通信ネットワーク株式会社入社。平成18年、同社がKDDI株式会社と合併する。平成28年より法人企業のDXを担当し、令和2年、地方創生支援室長に就任、令和4年、地域共創室 室長に就任する。
―自治体がスマート農業に取り組むうえでのポイントはなんでしょう。
まず、スマート農業に取り組む目的を明確にすることですね。「収穫量を上げる」「品質を向上させる」など、最終的なゴールをあらかじめ設定しておく必要があります。単に「スマート農業に取り組む」など、手段を目的化してしまうと「そもそもなにをやりたいんだったっけ」となりかねません。当たり前の話に聞こえますが、じつは、見過ごされがちなポイントです。また、ソリューションありきでスタートしないことです。地域の環境や扱っている農作物によって、課題はさまざま。それぞれの課題を解決するのに最適なソリューションを選び、活用すべきです。当社の場合、この2点に留意したうえでスマート農業の提案を行っています。
―具体的にどのような提案を行うのですか。
まずは自治体の方々と膝を突き合わせて、スマート農業でなにを実現したいかをじっくりヒアリングします。我々はIoTに関する知識はありますが、農業のプロではありません。そのため、必要であれば関係団体を巻き込み、ディスカッションする場を設けます。そうしたプロセスを経たうえで、適切なソリューションを提供し、目的達成のために伴走支援をするのです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
このように技術と対話の両輪で、一次産業の発展に貢献したいですね。そして、自治体の方々と一緒に地域の活性化を目指していきます。