長崎県西海市の取り組み
公用車へのEV導入①
民間の知見を集結したEV施策で、災害に強いまちづくりを推進
西海市 市長 杉澤 泰彦
※下記は自治体通信 Vol.49(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
脱炭素化を目指す世界的な潮流が強まるなか、「ゼロカーボンシティ」の実現を宣言する自治体が増えている。こうしたなか、西海市(長崎県)は、公用車へのEV導入を軸とする、ゼロカーボンシティを目指す取り組みを進めている。市長の杉澤氏は、「地域の実情に沿った取り組みにより、住民の環境意識のさらなる醸成に期待している」と語る。取り組みの狙いやその詳細について、同氏に聞いた。
[西海市] ■人口:2万5,709人(令和5年2月末日現在) ■世帯数:1万2,231世帯(令和5年2月末日現在) ■予算規模:342億4,410万6,000円(令和5年度当初) ■面積:241.60km2 ■概要:長崎県の中央、西彼杵半島北部に位置し、三方を海に面する。永禄5年(1562年)、市内の横瀬浦に日本初のキリシタン大名である大村純忠がポルトガルとの貿易港を開港した。江戸時代は捕鯨基地としても栄えた。炭鉱全盛時代と石炭から石油へのエネルギー革命による炭鉱閉山の歴史もあり、各所に当時を偲ばせる炭鉱遺構が現存している。
「災害対策の強化」は、長年の重要テーマだった
―西海市がEVの導入を決めた経緯を教えてください。
三方が海に面し、半島部の約半分を山林が占める当市では、かねてから豊かな自然を活かしたまちづくりに力を注いでおり、太陽光や木質系バイオマス、風力など再生可能エネルギーの導入には積極的に取り組んできました。令和3年6月には、国が示した脱炭素社会の実現に向けて、新たに「ゼロカーボンシティ」へのチャレンジを表明しました。この壮大な目標を達成するための具体的な取り組みについて、地域の銀行や商社と議論するなかで、EVの導入に関する提案を受けたのです。その提案は、西海市という地域の事情に沿った、大変意義の大きなものでした。
―それは具体的に、どういった提案内容だったのでしょう。
EVを「走る蓄電池」として、災害時に活用するというものです。山林が多い当市には、台風や豪雨による土砂災害が起こりやすい地形が数多くあり、「災害対策の強化」も長年のテーマでした。さらに近年は、台風の大型化や豪雨の激甚化・頻発化が進むなか、倒木による電線の寸断によって停電が3日間にわたって発生することもありました。その間は、重要な生活インフラである水道までもが使えなくなってしまうこともありましたが、ひたすら復旧を待つ以外に解決方法はありませんでした。そのため、EVを災害時の電源として活用するという提案は非常に魅力的だったのです。
―そこから、どのようにEV導入の動きを進めていったのですか。
まずは、当市を含む企業・団体10者*1が令和4年1月、「電気自動車及び再生可能エネルギーを核とした災害に強いカーボンニュートラルな地域づくりに係る連携協定書(以下、協定書)」を締結しました。この協定書に基づき、「EVの普及」「再生可能エネルギーの普及」「災害対策の強化」を目的とした各種取り組みを始めたのです。EV導入については、第一弾として、市役所の本庁舎と支所にEVを合計6台導入する準備を進めています。その後も、各庁舎における公用車の利用状況や予算などを考慮しながら、EVへの置き換えを順次進めていく方針です。
当市はこれまでも多くの環境政策を推進してきましたが、今回の取り組みには、特に画期的だと感じる点があります。
住民の環境意識を醸成する、大きな効果にも期待
―それはどういった点ですか。
「脱炭素」「再生可能エネルギー」といった目に見えない概念が、「EV」という実物や、「災害対策」という生活にかかわる地域課題と、わかりやすい形で密接に結びついている点です。西海市の脱炭素化に向けた取り組みを、住民が実際に目で見て、自分ごととして感じることで、環境意識がより一層醸成されていく。そんな大きな効果に期待しています。
今回の協定書に基づく取り組みでは、EV用カーポートや庁舎への太陽光発電設備の設置、公用車EVの導入と公用車のリース化など、10者の企業・団体の連携によってさまざまな計画を推進しているところです。多くの民間企業との連携による、「災害に強いカーボンニュートラルな地域づくり」が非常にスムーズに進んでいると感じています。
―脱炭素化に向けた今後の方針を聞かせてください。
市内ではいま、火力発電所や造船所を運営する大企業が、自社の存続をかけて脱炭素化に向けた技術開発に力を注いでいます。しかし、西海市としてゼロカーボンシティを実現するには、企業だけでなく住民一人ひとりの協力が欠かせません。今回の協定書に基づく取り組みを通じて、住民の環境意識をより一層高めることで、地域一丸となって脱炭素化に取り組んでいきたいですね。
職員の声
財政負担を考慮した、計画的なEV導入を図れている
西海市 総務部 財務課 課長 長井 慶太
「協定書」を締結した企業・団体からは、財政的な負担を抑えながらEV導入を進められるような、きめ細かな提案も受けています。たとえば住友三井オートサービスからは、「リースによるEV調達」の提案を受けたことで、ガソリン車と比べて高額なEVを、初期コストを平準化しながら導入できる見込みです。
また同社のグループ会社であるSMAサポートからは、車両管理ソリューションの提供も受け、この2月から全庁で利用を開始しています。このソリューションは、公用車の利用予約や「運転日報」の記録などを、すべてスマホアプリで完結できるようにするものです。従来、紙ベースで行っていた車両管理をデジタル化することによって、職員の事務負担を軽減する効果が期待できるうえ、「運転日報機能」で蓄積したデータをもとに、車両保有台数の適正化を図れる点に大きな魅力を感じています。
本市には、消防車両を除き、約170台の乗用車を公用車として保有していますが、このうち25台をEVに置き換えることを当面の目標としています。この目標を達成するに当たり、保有台数適正化に向けた分析結果は、ガソリン車を減らしてEV導入のための予算を捻出する際の、貴重な参考データになると期待しています。
西海市内企業の取り組み
公用車へのEV導入②
EVの導入効果を最大化させ、公民連携で地域課題解決に挑む
ここまでは、公民10者の連携で締結した協定書に基づき、「災害に強いカーボンニュートラルなまちづくり」を推進する西海市の取り組みを紹介した。ここでは、協定書を締結した企業のうち2社を取材。取り組みがもつ意義について、十八親和銀行の下田氏と、西海クリエイティブカンパニーの宮里氏にそれぞれ聞いた。
株式会社十八親和銀行
将来はシェアリングサービスなど、地域活性化策としての展開も
株式会社十八親和銀行 常務執行役員 下田 義孝
―西海市の取り組みに、どういったかたちでかかわっていますか。
企業マッチングや事業アレンジを主導しています。メーカーや商社、ホテルなど、さまざまな団体がもつ事業リソースや知見を活かし、脱炭素化に向けた施策に大きな付加価値を与えられる点が、取り組みがもつ意義だと考えています。たとえば、取り組みの核となるEVの導入に際しては、住友三井オートサービスによる、リースの活用を始めとしたさまざまなモビリティサービスの提案が、迅速な推進につながったとみています。
―今後、西海市の取り組みにどのように貢献していきますか。
参画企業からは、公用車として導入したEVを一般向けに貸し出すという「シェアリング事業」など、さらなる新しい提案もあがっています。そうした提案を実現させ、地域課題の解決や地域活性化につなげていくために、引き続き、地域の金融機関として取り組みを下支えしていきます。
株式会社十八親和銀行
株式会社西海クリエイティブカンパニー
将来はシェアリングサービスなど、地域活性化策としての展開も
株式会社西海クリエイティブカンパニー 代表取締役 宮里 賢史
―西海市の取り組みでは、どういった役割を担っていますか。
自治体新電力を手がける企業として、令和4年から西海市役所本庁舎など29施設に長崎県産の再生可能エネルギー電力を提供しています。この取り組みによって、西海市の二酸化炭素排出量を年間980t削減できる見込みです。
―取り組みのどういった点に意義があるとみていますか。
再生可能エネルギーの普及とEVの普及を取り組みの両軸に据えている点です。大容量の電気を貯めることが技術的に難しいなか、再エネ電力を有効活用するには、いかに供給者と需要家をリアルタイムにマッチングするかがカギになります。そこにEVという大容量かつ移動可能な「蓄電池」が普及すれば、電力をより無駄なく融通できる仕組みを構築できます。こうした画期的な取り組みに対し、当社は今後も新電力事業で培ってきた知見を活かし、ゼロカーボンシティの実現を支援していきます。
株式会社西海クリエイティブカンパニー
支援企業の視点
堅実なEV施策の推進に向けて、まずは余剰な公用車の削減を
住友三井オートサービス株式会社 執行役員 四宮 浩介
これまでは、EVを活用して脱炭素化や災害対策の強化を図る、西海市と地域企業の取り組みを伝えてきた。ここでは、その取り組みを支援している住友三井オートサービスを取材。自治体がEV導入を進める際のポイントを同社の四宮氏に聞いた。
―EVの導入を検討する自治体は増えていますか。
はい。特に最近は、EVを「動く蓄電池」としてとらえ、BCPの強化を目的に導入を考える自治体が増えています。しかしEVは高額なため、導入をためらってしまうケースも多いです。そうした自治体に対して当社は、保有する公用車の数を減らし、EVの導入資金を捻出することをおすすめしています。リース事業を長年展開してきた経験に照らし合わせると、自治体や企業の大半は自動車を必要以上に多く保有しているものです。
―どのようにして車両の台数を減らせばよいのでしょう。
2つのステップを踏む必要があります。1つ目は、庁内で車両を共有化すること。各部署で台数を割り振って車両を使っている場合、庁内全体での車両の稼働状況を把握しにくいためです。2つ目は、「運転日報」をもとに、車両の詳細な稼働状況を把握することです。当社では、自治体がこれらのステップを踏んで車両管理コストの削減につなげるために、当社グループ会社であるSMAサポートが提供する『モビリティ・パスポート』という車両管理アプリの活用を提案しています。
―特徴を教えてください。
車両の予約や「運転日報」の記録を単一のアプリで完結できる点です。予約の際は、空き車両やほかの職員の利用状況を手軽に確認できるため、部署をまたいだ車両の共有化を実現しやすい環境を構築できます。また、運転日報として記録した車両の利用情報は、デジタルデータとして蓄積されます。それらのデータを、当社がビジネスモデル特許を取得している特殊な手法によって分析し、具体的に削減可能な台数を算出できます。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社では、日産自動車などさまざまな企業と連携し、「SMASカーボンニュートラル・コンソーシアム」という組織を設立しています。これにより、車両・設備の調達から運用まで、自治体のEV施策を一貫支援できます。運用に関するものでは、たとえばエネルギーマネジメントやシェアリングサービスを実現するためのシステムなどを提案できます。関心のある自治体のみなさんは、ぜひご連絡ください。
四宮 浩介 (しのみや こうすけ) プロフィール
昭和40年、宮崎県生まれ。昭和62年に青山学院大学を卒業後、住商オートリース株式会社(現:住友三井オートサービス株式会社)に入社。令和3年より現職。おもに九州沖縄営業本部を統括する。
住友三井オートサービス株式会社
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