※下記は自治体通信 Vol.57(2024年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
国のカーボンニュートラル宣言の発出以降、各自治体でもゼロカーボンシティ宣言を表明し、それぞれの地球温暖化対策が進展している。その一環として昨今、公用車に電気自動車(以下、EV)を導入する動きが本格化している。向日市(京都府)もそうした自治体の一つだが、同市ではEV導入にとどまらず、公用車運用の効率化や台数削減まで実現しているという。同市市長の安田氏に、取り組みの経緯や今後の環境ビジョンなどを聞いた。
[向日市] ■人口:5万5,945人(令和6年3月1日現在) ■世帯数:2万3,774世帯(令和6年3月1日現在) ■予算規模:416億8,037万3,000円(令和6年度当初) ■面積:7.72 km² ■概要:京都府の西南部(山城)に位置。北部と西部は京都市西京区、東部は京都市南区と伏見区に、南部は長岡京市に接し、大山崎町を経て大阪府に至る。旧都・長岡京において政治・文化の中心を担う。江戸時代に入ると、西国街道沿いに商店が建ち並ぶ乙訓郡内の商業の中心地として繁栄。その後も、京都と大阪を結ぶ交通の要衝として発展した。
EV化と台数削減のセットで、初めて環境負荷低減に寄与
―向日市が公用車にEVを導入し始めた経緯を教えてください。
当市は令和4年10月に「ゼロカーボンシティ宣言」を行い、政府目標と同様、2050年までにゼロカーボンを目指しています。また、令和5年3月に、京都府が推進する「ZET-valley構想」に参画し、ゼロカーボンのまちづくりを推進しています。公用車へのEV導入は、こうした市の環境政策の一環です。当市は大阪府と京都府の結節点となる市街地であるため、CO₂を吸収する大規模な森林は存在しません。また、市域が狭く、太陽光発電などの再生可能エネルギーの設置も効果は限定的です。そのため、当地での革新的な技術開発を支援し、新たな技術を積極的に導入していくことで、ゼロカーボンのまちづくりを推進していく方針です。市内を走る公用車のEV化は、こうした市の方針を市民にわかりやすく伝える方法の一つと考えています。
ただし、私はEV導入に際して、施策の実効性を高めるために、一つの前提条件をつけました。
―それはなんでしょう。
公用車全体の台数を減らすことです。というのも、これまで公用車の運用状況を見ながら、私はそこに大きなムダがあると感じてきたからです。日頃、庁内では「車が足りない」という声を頻繁に聞くのですが、駐車場を見れば公用車は余っているわけです。それなのに、なぜ足りないかといえば、各課が専用車というかたちで公用車を個別に保有、管理していたからです。ならば、デジタル化で運用管理業務の一元管理を図り、公用車を全部署共有とすることで「全体最適」を実現し、台数を削減する。EV化と台数削減がセットになって初めて、環境負荷低減に寄与すると考えたのです。同時に、組織の縦割り文化の打破にも一役買ってもらいたいと期待しました。ちょうどその頃、職員が『自治体通信』で同様の取り組みを行った小松市(石川県)の記事を読み、私自身も同市へ視察に行った結果、我々も車両管理アプリ『Mobility Passport』の導入を決めました。令和5年4月から運用を開始しています。
「自分のまちは進んでいるな」と市民が誇りを持てる市政へ
―導入効果はいかがでしたか。
現在までに20台のEVを導入すると同時に、『Mobility Passport』によって40台の運用管理を財産管理課に一元化したうえで全部署共有車とすることで、早くも6台の削減に成功しています。それだけではなく、これまで紙で運用していた車両予約や運転日報、車両点検に加え、新たに必要になる充電状況の確認やアルコールチェックといった公用車運用にまつわる業務をすべてデジタル化して一括管理し、合理化と省力化を図る体制の構築も進めています。当市は、日本でもっともDXを進めるつもりでさまざまな取り組みを進めていますが、この公用車管理の業務改革はゼロカーボンにとどまらず、DXによる業務改革、さらには職員の意識改革にまでつなげられる取り組みと位置づけています。
―今後の向日市における環境ビジョンを聞かせてください。
公用車については、現在保有する全64台のうち、一部を除く大半をEVにしたいと考えており、2030年度までには40台のEV化を完了させる計画です。その時点では、車両管理の合理化効果が浸透することによって公用車の台数は従前の3分の2程度に減らせる見通しです。この取り組みを大きな一歩とし、「自分のまちは進んでいるな」と市民が誇りを持てる市政を実現していきます。
EV導入に向けた公用車管理の効率化②
データ活用こそ「DXの本質」。情報分析で車両運用の最適化を追求
ここまでで紹介した向日市における公用車のEV化と車両管理業務の効率化の取り組みでは、新たに一元化された車両管理業務を同市財産管理課が担っているという。現場ではどのようにシステムを運用し、いかに公用車管理の効率化を図っているのか。同市財産管理課係長の大八木氏に、その導入効果とともに聞いた。
収集する運行情報は、適正台数算出の貴重なデータ
―車両管理アプリの活用状況を教えてください。
これまで各課で管理してきた専用車は、その大半を全部署で共有化したうえで、財産管理課が『Mobility Passport』によって一元的に管理する体制に移行できました。公用車を利用する約420人の職員にはIDを付与し、スマートフォンやパソコンから『Mobility Passport』で予約申請や運転日報の提出を行えるようになったので、利用する職員も運用が楽になったようです。利用者の運転免許証の有効期限や車両点検状況の確認もシステム上で行えます。鍵管理システムやアルコール検知器といった周辺機器と連動させ、今誰が鍵を保有し、次の予約は誰が行っているか、アルコールチェックは適切に行われているか、といった管理を行えるようになりました。全部署共有車は従来の8台から約40台へ増やしましたが、全庁的な車両管理の負担は8台の時代よりも大幅に軽減されましたね。
―現場では、どういった効果を実感していますか。
運行情報をデジタルで収集できる仕組みなので、さまざまな分析に活かせます。その情報は、既存の公用車のEVへの切り替え時期や適正台数の算出、車種選定などの際の貴重なデータになります。じつは、正式導入の半年前から当市では、無料モニターとして『Mobility Passport』を試用しており、EVへの転換と、公用車6台の削減ができたのも、その際に得たデータを分析した成果でした。現在も、共有車全体の平均稼働率70%を一つの目安とし、それを下回った際には台数削減を検討しています。こうしたデータ活用こそが、DXの本質だと考えています。
―今後の活用方針を聞かせてください。
今後は、運行情報の分析をさらに発展させ、充電スポットの配置や充電回数などの最適化に活用し、EV運用の効率性をこれまで以上に高めていきたいですね。
EV導入を推進するには、車両管理のデジタル化は不可欠
これまでの向日市における「公用車管理の効率化」の取り組みでは、車両管理アプリの導入が重要なポイントとなっていた。ここでは、同ツールを提供するSMAS(住友三井オートサービス)の玉越氏に取材。EV導入を推進するための条件や、車両管理効率化の必要性などについて聞いた。
玉越 郁朗たまこし いくろう
昭和36年、兵庫県生まれ。昭和59年に甲南大学を卒業後、住商オートリース株式会社(現:住友三井オートサービス株式会社)に入社。令和元年より常務執行役員営業部門長補佐(西日本担当)兼近畿圏営業本部長。令和6年4月より同社顧問に就任。
―自治体でのEV導入の動きを、どのように分析していますか。
EV導入はかなり進んでいます。それは、環境政策の観点に加え、災害時の非常用電源としての活用などBCP対策の観点からもEVの有用性が認められているからです。とはいえ、現状はEVの導入コストはガソリン車に比べるとまだ高いです。そのため、導入費用を捻出するには、現状の各部署単位の保有・管理から全庁規模での車両共有化へ、同時に管理も一元化へと移行することが急務となります。余剰車両のムダを省き、台数の削減を進めるためです。昨今義務化されたアルコールチェックへの対応を考えても、一定の部署が責任を持って管理することが必要です。その際、煩雑な車両管理業務のデジタル化を図ることが欠かせません。そこで当社では、車両管理アプリ『Mobility Passport』の導入を提案しています。
―特徴を教えてください。
車両予約システム、運転日報の記録、アルコールチェック結果の管理、運転免許証の有効期限の管理という大きく4つの機能を備えたシステムです。稼働率や稼働日数、走行距離といった公用車の月別稼働実績を可視化できますので、これらは公用車の適正保有台数を算出するデータとしても活用できます。これらのデータをもとに検証することで、導入自治体では実際に2~3割程度の台数削減に成功しているケースが多いです。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、『Mobility Passport』の運用データをもとに、車両台数の最適化レポートやEV転換のコストシミュレーション、車両整備のコスト分析といった支援も提供できます。また、『Mobility Passport』の無料モニター制度を設けており、導入前に効果を実感していただける機会を用意しています。そこでは希望に応じて、公用車運用の最適化やEV車種選定への提案も行うことができます。ぜひお問い合わせください。