―就任以来、どのような教育政策を推進してきましたか。
個々の児童に丁寧な指導ができるよう、市長選の公約で掲げていた少人数学級をすべての市立小学校で実現しました。しかし、それだけではきめ細かな指導の実現は難しいことがわかりました。
学力は学びの蓄積ですが、従来はテストの結果を点数化するだけで、過去の学習を振り返ることができる十分なデータをえられないことが課題でした。ベテラン教員も大量退職し、若手教員の指導力向上も求められています。当市は、学習のつまずきや特性を読み取れる詳細なデータをえることで、課題の解決を試みました。民間企業の学習クラウドシステムを活用した、個別最適化学習の事業を平成28年から始めたのです。
―具体的に個別最適化学習について詳しく聞かせてください。
教員がテストの答案をクラウドに送り、AIでデータを分析します。分析結果をもとに児童一人ひとりの習熟度や苦手分野に応じた復習教材が自動で作成され、学校に提供されます。算数を対象教科に、このサイクルを年14回の単元テストと3回の学期末テストごとに実施。現在は市立の小学校全43校の4~5年生で導入しています。
「不自然な正誤答」も可視化
―AIの分析でえられるデータはなにが違うのでしょう。
たとえば、「現代テスト理論(※)」にもとづいた分析で、「不自然な回答」の可能性がわかることです。ある問題を正答しても、同等の難度の問題を多く間違えていれば、「まぐれ正答」の可能性が示される。また、「同じ正答数でも、より難しい問題に正解した児童のほうが潜在的な習熟度が高い」ということもわかります。
従来の採点作業では読み取れなかった正確な習熟度がわかる分析結果により、教員は児童に合ったきめ細かい指導ができるのです。
児童も、復習教材で効率的に自分の強み・弱みを見直せます。自分の能力に合った問題が個別に提供されるため、「学習意欲の向上にもつながっている」との報告が教育現場から届いています。
※現代テスト理論:テストの得点を科学的対象としてあつかう学問分野のひとつ。小問ごとの正誤情報を統計的に処理することで、問題の難易度を客観的に設定し、個人の能力特性を可視化できる
―今後の利活用ビジョンを聞かせてください。
個別最適化学習でえられるデータは、年数をかけて蓄積したいと考えています。
義務教育期間の学びが、進学やキャリア形成にどう影響するか。こうした分析を行い、より充実した行政サービスにつなげるため、データを活用したいですね。