石川県小松市の取り組み
車両管理業務の効率化
公用車の全庁共有を進め、各部署の管理負担を「ゼロ」に
小松市 総合政策部 管財総務課 高見 芳宏
※下記は自治体通信 Vol.32(2021年8月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
多くの公用車を保有する自治体においては、日常的な利用状況の把握や、点検整備への対応など、車両管理にまつわる業務が職員の負担になっているケースが少なくない。こうしたなか、小松市(石川県)では、庁内の公用車管理をデジタル化し、全庁的な業務改善につなげている。いったいどのような取り組みなのか。管財総務課の高見氏に詳細を聞いた。
[小松市] ■人口:10万7,027人(令和3年7月1日現在) ■世帯数:4万4,334世帯(令和3年7月1日現在) ■予算規模:996億2,700万円(令和3年度当初) ■面積:371.05km² ■概要:石川県西南部に広がる豊かな加賀平野の中央に位置する。「歌舞伎のまち」として知られ、かつて関所があった「安宅の関」は、江戸時代から伝統芸能「曳山子供歌舞伎」が受け継がれ、歌舞伎「勧進帳」の舞台となった。近年はSDGsの推進に力を入れており、令和元年7月には国から「SDGs未来都市」に選定された。
すべての部署において、車両の管理業務が発生
―小松市が公用車管理業務のデジタル化に取り組むことになった経緯を聞かせてください。
北國銀行と締結した「包括連携協定」にもとづき、行財政改革や業務効率化に向けた課題について議論するなかで、公用車の管理業務に着目しました。職員に生じる業務負担や、車両の維持管理にかかるコストを鑑みて、改善の余地が大きいと考えたためです。具体的な取り組みとしては、車両の維持管理に関する一部業務を、北國銀行の子会社である北国総合リースに委託しました。これにより、重複する業務の削減や、人件費の圧縮を実現できました。
しかし、庁内に残った車両管理に関する一部業務は、依然として職員の負担になっていました。
―どのような業務が残っていたのでしょう。
おもに、車両の予約・使用に関する管理業務です。庁内で保有する車両は、特殊車両を除いて80台ほどありますが、部署ごとに台数を割り振り、「各課専用車両」のようなカタチで管理・使用していました。そのため、部署内で車両の空きがなくなることもあり、その場合は、当該部署の管理担当者が他部署に問い合わせ、車両を融通してもらう手続きが必要でした。また、車検やタイヤ交換などの時期が近づくと、部署内における車両の予約状況を確認しながら、入庫時期を決めたり、車両を預けたりする必要がありました。こうした業務がすべての部署で発生していたのです。
そうした折、北国総合リースから、公用車管理に関する新たな業務効率化策の提案を受けました。
予約管理や日報提出の手間を、デジタル化で解消
―どういった提案を受けたのでしょうか。
庁内における公用車管理をデジタル化すると同時に、各部署で行っていた管理を一元化するという内容です。提案を受け、当市では住友三井オートサービスの100%子会社、SMAサポートが提供する車両管理業務ソリューション『モビリティ・パスポート』を今年1月に導入しました。これにより、職員は公用車の空き情報の確認や予約をスマホで行えるようになったため、各部署では車両の利用状況を把握する管理負担が実質、「ゼロ」になりました。それまで車両管理を担っていた職員は、各部署における本来の業務に専念できるようになっています。また、車両を全庁で共有できる仕組みが整ったため、これまで各部署で行っていた車両の管理業務も、我々、管財総務課が一括で担うことになりました。
このほか、車両を利用する職員全員が得られているメリットもあります。
―どのようなメリットを得られているのですか。
車両の利用を全庁で共有できるようになったことで、部署内で車両が不足するという問題がおのずと解消されました。また、車両の利用者は従来、自動車の走行距離や行き先などを記録する「運転日報」を紙ベースで作成し、管理担当者に提出していましたが、『モビリティ・パスポート』の導入後は、スマホを使い、時間や場所を選ばず提出できるようになります。職員からは、「帰庁後、車内にいながらにして運転日報を提出できるので、ラクになった」という声が聞こえています。
―車両管理の効率化に関する今後の方針を聞かせてください。
『モビリティ・パスポート』では、職員が作成した「運転日報」をもとに、車両の稼働実績をデータとして蓄積できます。住友三井オートサービスとSMAサポートからは、このデータを活用し、車両の保有台数を適正化していくことも可能になると聞いています。こうしたサービスも活用することで、今後は車両の保有コスト削減にもつなげていきたいですね。
民間企業の取り組み
業務負担の軽減にとどまらない、車両管理効率化のメリットとは
株式会社北國銀行 コンサルティング部 ICTグループ チーフ 太田 圭一
北国総合リース株式会社 小松営業所 所長 東 志郎
大量の車両管理は、財政負担にもつながっている
ここまでは、小松市が進める、公用車管理業務の効率化に関する取り組みの一部を伝えた。小松市と「包括連携協定」を締結し、地方創生や行財政改革など幅広いテーマで課題解決を支援している北國銀行の太田氏はこう語る。
「自治体は、庁内業務に限っても、ペーパーレス化や長時間労働の是正など、多くの課題を抱えています。そのなかで小松市が着目したのが、公用車の管理業務でした」
自治体は、救急車や消防車などの緊急車両や、運搬車両、一般車両まで、多くの公用車を保有しているケースが珍しくない。保有する車両が多いほど、車検や法定点検の実施、車両保険の管理などで、自治体職員にかかる業務負担や、財政負担が大きくなる。
それでは、どのように公用車の管理業務を効率化していけばよいのか。北國銀行グループ、北国総合リースの東氏は、こう説明する。
「リース車両の活用や、一部業務のリース会社への委託によって、車両の管理は効率化できます。たとえば、リース車両を活用すれば、公用車の維持管理にかかる費用を平準化でき、年度予算計画が立てやすくなるほか、車両管理にかかる事務量も軽減できます」
今回、小松市が実際に行ったのは、車両の維持管理に関する業務のアウトソーシングだった。従来、車検やタイヤ交換などは、各部署の担当者が個別に市内事業者に発注し、業務が重複していた。この発注業務を委託したことにより、同市によると、各部署が事業者に出していた支払伝票の数は、年間400枚から12枚に抑えることができたという。同時に、職員の車両管理にまつわる業務時間は年間で合計約1,000時間、人件費は年間280万円、それぞれ削減できた。
目指すべきは、保有台数の適正化
「車両管理を見直し、保有台数の適正化まで実現できれば、さらに大きな成果を得ることもできます」。こう語るのは、小松市における車両管理業務のデジタル化を支援した、住友三井オートサービス/SMAサポートの担当者だ。
「保有台数を減らせれば、管理費用の圧縮だけでなく、地球温暖化の原因となる排出ガスの削減にもつながります。保有台数の適正化によって捻出できた資金を、EVの調達やリースに充てることもできるでしょう」。EVは「移動できる蓄電池」として、災害時のBCP対策にも活用できる。「車両管理の見直しは、SDGsの推進や行財政改革といった、大きな取り組みへの第一歩にもなるのです」(前出の担当者)。
北国総合リースの東氏は、「小松市が今年新たに導入した『モビリティ・パスポート』は、管理業務をデジタル化するだけでなく、車両の稼働データを、保有台数の適正化につなげられる点が画期的なソリューションです。小松市での車両管理にまつわる一連の取り組みが成功事例となって、全国の自治体に広まっていければいいですね」と話している。
株式会社北國銀行
北国総合リース株式会社
設立 |
昭和49年4月 |
資本金 |
9,000万円 |
売上高 |
96億1,100万円(令和3年3月期) |
従業員数 |
35人(令和3年6月28日現在) |
事業内容 |
機器や船舶、車輌、産業機械など各種物件のリース |
URL |
http://www.hksl.co.jp/ |
支援企業の視点
車両の稼働状況を可視化し、管理コストの削減につなげよ
住友三井オートサービス株式会社 兼 SMAサポート株式会社 モビリティソリューション推進部・グループマネージャー 福谷 奨吾
これまで紹介したように、自治体は公用車の管理業務を見直すことで、業務負担の低減にとどまらず、保有台数の適正化による大きな効果が期待できる。ここでは、小松市の取り組みを支援している住友三井オートサービス/SMAサポートの福谷氏を取材。保有台数の適正化を進めるポイントについて聞いた。
自治体によっては、車両数を半減できるケースも
―公用車管理の効率化に取り組む自治体は増えていますか。
リースの活用や業務の外部委託により、公用車管理の効率化を図る自治体は増えています。しかし、保有台数の適正化まで着手できている自治体は少ないのが現状です。多くの自治体では車両を部署単位で管理しており、車両の稼働状況を全庁レベルで把握できていないためです。そこで、当社が開発した『モビリティ・パスポート』では、車両管理のデジタル化を通じ、管理体制の一元化と、車両の稼働状況を把握するための仕組みづくりを支援していいます。
―どのように稼働状況を把握できるのですか。
日々の「運転日報」をもとに、1日当たりの稼働台数や利用時間、走行距離、月間の稼働率を蓄積し、可視化できます。ただし、これらのデータから車両の具体的な削減台数を導くのは難しいため、当社では、適正な保有台数の分析も支援しています。当社の分析手法はビジネスモデル特許を取得しており、1日のうちで同時に稼働した台数や時間などから削減できる台数を算出します。この分析により、ある自治体では、保有台数を約70台から30台程度に減らせることがわかった例もありました。民間企業での導入実績からは、リースを含む管理コストを平均20%削減できる効果が確認できています。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社はこれまで、車両管理をめぐるBPO*1支援を多数、手がけてきました。その豊富な支援実績から得た車両管理効率化の知見を活かし、ソリューションとして具現化したのが、『モビリティ・パスポート』です。当社ではこのほか、リース活用を含めた幅広い提案が可能ですので、お気軽にご連絡ください。
福谷 奨吾 (ふくたに しょうご) プロフィール
昭和58年、大分県生まれ。平成18年、和歌山大学を卒業後、住友三井オートサービス株式会社に入社。おもにモビリティサービスの営業推進を担う。
住友三井オートサービス株式会社
SMAサポート株式会社
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