福島県いわき市の取り組み
地域住民の健康増進策
簡便な機器による血糖の自己管理で、市民の健康増進意識を喚起
いわき市 保健福祉部 健康づくり推進課 健康政策係長 猪狩 僚
※下記は自治体通信 Vol.38(2022年5月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
いまや国民病とも称される生活習慣病は、行動自粛が求められるコロナ禍の影響もあり昨今、対策の必要性は増していると言えよう。発症予防の観点からは、いかに働く世代へ早期にアプローチするかが重要なポイントとなる。そうしたなか、いわき市(福島県)では、住民が血糖変動をセルフチェックし、健康意識を高めるきっかけにするという新たな取り組みを行っている。その詳細と成果について、同市担当者に話を聞いた。
[いわき市] ■人口:32万6,955人(令和4年4月1日現在) ■世帯数:14万958世帯(令和4年4月1日現在) ■予算規模:3,079億8,341万7,000円(令和4年度当初) ■面積:1,232.26km2 ■概要:福島県の東南端、茨城県と境を接し、広大な面積を持つ。東は太平洋に面しているため、寒暖の差が比較的少なく、温暖な気候に恵まれた地域。地形は、西方の阿武隈高地から東方へゆるやかに低くなり、平坦地を形成している。夏井川や鮫川を中心とした河川が市域を貫流し、太平洋に注いでいる。
身体の状態を把握することが、健康増進の重要な第一歩
―いわき市ではこれまで、住民の健康増進をめぐり、どのような施策を行ってきましたか。
当市では、3年前に健康づくり推進課が発足したことを機に、特に働く世代の健康増進や企業の健康経営を支援する取り組みに力を入れています。これまでは、健康保険の枠組みごとに健康指導などを行ってきたのですが、それだとそれぞれのライフステージによって施策が分断されることも起こりえます。そうした課題感から、市民のライフステージを一気通貫で支援できる健康増進の仕組みが必要だという判断があり、課の発足につながりました。そのうえで、近年の健康経営に対する関心の高まりも考慮し、これまでどちらかと言えば手薄だった働く世代の健康増進に注力しているのです。
―実際に、どういった取り組みを進めているのでしょう。
福島県による「市町村先駆的健康づくり実施支援事業」の枠組みを活用し、今年1月に日本生命が提供する「血糖変動チェックプラン」という取り組みを実施しました。この支援事業は、県が紹介する民間8社の健康増進サービスから、それぞれの自治体がひとつを選択し、実施するというものです。当市では、それぞれの施策を比較検討のうえ、科学的なエビデンスが担保された医療機器によって、自分の身体の状態を把握するという健康増進の重要な第一歩を踏み出せる効果に期待し、「血糖変動チェックプラン」を選定しました。
―詳しく教えてください。
参加者が2週間、『FreeStyleリブレ』という血糖管理ツールを使って、24時間のグルコース値*1の変動状況を自身でモニタリングするというものです。特に採血する必要はなく、機器を二の腕に当てるだけでリアルタイムに測定できる簡便さは、本当に驚きでした。これなら参加者も手軽に健康状態を知ることができると思いました。
じつは当初、日本生命の「糖尿病予防プログラム」という、3ヵ月にわたるより本格的なサービスの利用を検討していました。しかし、働く世代の健康増進や企業の健康経営を支援するという目的を日本生命に伝えたところ、対象を限定せず、より多くの人々に参加してもらえる取り組みとして提案を受けたのが「血糖変動チェックプラン」だったのです。
食事とグルコース値の連関が、目で見て確認できる
―効果はいかがでしたか。
当市では、参加企業にレポートの提出をお願いしたのですが、それを読むと、今回の取り組みが各自の行動変容につながっている様子がよくわかりました。食事とグルコース値の関連を目で見て確認できるので、食事内容や食事量が徐々に変わっていったり、運動を始めたりする人も。「身体の状態を知ることが健康意識を喚起する重要なきっかけになる」ことを実感しています。一方、我々としても、市内には従業員の健康に関心を持つ経営者や、健康経営に配慮する企業があることもよくわかりました。
今回は、日本生命の営業担当者が各企業への案内で力を貸してくれましたが、直接背中を押してくれる存在が、健康経営に踏み出すうえで重要な役割を果たすことも実感しています。
―今後の方針を聞かせてください。
福島県は、肥満の割合や塩分摂取量*2が男女とも全国ワーストクラスで、急性心筋梗塞の都道府県別年齢調整死亡率*3では男女ともにワースト1など、健康増進に大きな課題を抱えています。そのなかでも、特に当市は、平成28年度の特定健診受診率が県内ワースト1位という状況です。この汚名返上に向けて、当市では今回の取り組みを、市民の生活習慣の改善や、企業の健康経営推進のきっかけにし、長期的視点に立って市民の健康増進を実現していく考えです。
支援自治体の視点 / 福島県の取り組み
職場単位での参加によって、取り組みの継続性も期待できる
福島県 保健福祉部 健康づくり推進課長 笹木 めぐみ
これまでに見た、いわき市の取り組みは、福島県が進める「市町村先駆的健康づくり実施支援事業」の一環として実施されたものだ。この事業の狙いや、いわき市の取り組みに対する期待や評価などについて、同県保健福祉部 健康づくり推進課長の笹木氏に話を聞いた。
―「市町村先駆的健康づくり実施支援事業」を立ち上げた経緯を教えてください。
当県では東日本大震災以降、メタボリックシンドローム該当者の割合が増加し、ワースト4位*4と生活習慣病リスクが高い状態が続いています。そこで県では県内の地域・職域の関係団体とオール福島体制を組み、健康増進計画を進めています。本支援事業はその一環で、県が連携する民間企業提供の健康増進サービスのなかから各自治体が事情に合わせて選定・導入できる施策です。いわき市が選定した日本生命のサービスは、血糖に直接アプローチする取り組みで、生活習慣病対策として有効だと考えます。
―いわき市の取り組みに対し、どのように評価していますか。
企業の健康経営を支援する視点から、民間企業を通じて働く世代を直接ターゲットにしている点は、本支援事業を実施する自治体のなかでもユニークな取り組みです。職場としての取り組みは、社員同士のコミュニケーションも活性化し、楽しい健康習慣の定着も期待できます。今回の成果を、県内自治体と共有し、さらに横展開ができれば、県が目指す健康長寿県の実現にも近づくものと期待しています。
プログラム監修 日本生命病院
行動変容意識の萌芽が、血糖改善効果を高める可能性も
日本生命病院 副院長 内分泌・代謝内科部長 糖尿病・内分泌センター長 橋本 久仁彦
いわき市が導入し、その効果を実感した「血糖変動チェックプラン」。このプログラムを監修しているのは、日本生命病院だ。このプログラムにはどのような効果が期待できるのか。同病院副院長で、糖尿病・内分泌センター長を務める橋本氏に聞いた。
―医学的な観点から、「血糖変動チェックプラン」にはどのような意義がありますか。
「血糖変動チェックプラン」は、まさに自らが行う食事摂取や身体活動と血糖値がダイナミックに相関する可能性があることを視覚的に実感できることで、生活習慣変容につながる契機になることに、その意義があると思います。
従来より、日本生命が提供している「糖尿病予防プログラム」は、保健師からの専門的なアドバイスを聞く際、利用者の方々の積極性にその効果が左右されることがありえます。しかし、「血糖変動チェックプラン」は、日々の血糖変動を自分で確認し評価することができます。リアルタイムで自分の身体で起こっている血糖の推移に意識を向けるツールになるのです。
―「血糖変動チェックプラン」と「糖尿病予防プログラム」は、どのように使い分けるべきでしょう。
今後は「血糖変動チェックプラン」をきっかけに、生活習慣の変容が効果的と思われる利用者の方々が「糖尿病予防プログラム」に参加できれば、両者の有用性はとても高まると推測します。すなわち行動変容の意識が萌芽した利用者に対して、保健師からの専門的、実践的なアドバイスが行われると、利用者が実際に取り入れようとする確率が高まります。結果、血糖改善効果が飛躍的に得られる可能性があると考えます。
―健康増進に関心がある自治体職員にアドバイスをお願いします。
現在、糖尿病患者は全国で約1,000万人とされ、さらに同数以上の予備群がいると推定されています。血糖コントロールが不良なまま放置していると、深刻な合併症を引き起こす恐ろしい病気ですが、早期の対策で発症や進行を止めることはできます。予防が早いほど、ゆっくりと生活習慣を見直すことができます。一日も早い予防対策をお勧めします。
橋本 久仁彦(はしもと くにひこ) プロフィール
昭和37年、大阪府生まれ。昭和62年、金沢大学医学部卒業。平成7年、大阪大学大学院修了。医学博士。令和4年より現職。
支援企業の視点
住民の健康リテラシー向上が、健康寿命の延伸につながる
日本生命保険相互会社
ヘルスケア事業部 ヘルスケア事業企画担当部長 兼 イノベーション開発室調査役
兼 法人開拓戦略室調査役 兼 本店企画広報部調査役 須永 康資
ヘルスケア事業部 ヘルスケアコンサルティング推進役 杉原 智子
―「血糖変動チェックプラン」の開発理由はなんですか。
須永 「糖尿病予防プログラム」が多くの自治体から好評を得るなかで、「もっと幅広い対象に提供できるサービスはないか」との相談を受けて、昨年8月に提供を開始したものです。糖尿病の治療中でなければ、誰でも参加でき、プランの目的も血糖の数値改善というよりは、参加者の健康リテラシーを高めることに主眼を置いています。
杉原 一方で、「糖尿病予防プログラム」と同様、日本生命病院の監修のもと、糖尿病専門医や保健師によるアドバイスや健康関連コラムを日々受け取ることができます。最新のICTツールにより自身の身体の状態を知ることで健康増進につなげるポピュレーションアプローチをとりたい自治体にとっては、とても有効な選択肢となっています。
―今後の自治体に対する支援方針を聞かせてください。
須永 全国に張り巡らされた営業ネットワークを活かし、従来の「糖尿病予防プログラム」と併せ、この新たな生活習慣病対策を住民へ届けるラストワンマイルの役割を果たしていきたいと考えています。その結果、地域や国全体の健康寿命延伸につながるのであれば、とても意義のあることだと思っています。住民の健康増進や企業の健康経営を支援したい自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。
須永 康資(すなが やすし)プロフィール
群馬県生まれ。平成16年、日本生命保険相互会社に入社。平成28年から現職。
杉原 智子(すぎはら ともこ)プロフィール
東京都生まれ。平成11年、日本生命保険相互会社に入社。令和3年から現職。
日本生命保険相互会社
創立 |
明治22年7月 |
従業員数 |
7万6,792人(うち内勤職員2万1,117人、令和3年3月末現在) |
事業内容 |
生命保険業、付随業務・その他の業務 |
URL |
https://www.nissay.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 |
0120-201-021 (月~金 9:00~18:00、土 9:00~17:00 祝日・12/31~1/3を除く) |
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